『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』川上 和人 /引用三昧 13冊目

Section 1 恐竜とはどんな生き物か 強者どもは夢のなか 

ここで、もう一つ共通認識をもっておきたい。私達がイメージする恐竜像は、じつは非常に儚-はかないものだということだ。

恐竜研究の進展は日進月歩だ。毎年のように新発見があり、次々に過去の説が覆-くつがえされていく。この本の執筆中にも続々と新たな研究結果が発表されている。私達が恐竜と呼ぶものは、化石として発見されるわずかな骨に基礎を置くものであり、行動も外見も、ほとんどが推測に過ぎない。ゆるぎない事実は、「ある場所である骨が出土した」ということだけである。これに対して、地層から年代を推定し、一部の骨から全身を推定し、全身の骨から外部形態を推定し、形態から行動を推定する。証拠が少ない以上、さまざまな仮説が林立することになる。図鑑で目にする姿と解説文は、あくまでも有力な仮説の一つでしかない。[30]                          

 

第1章●恐竜はやがて鳥になった Section 1 生物の「種」とはなにかを考える                   

DNAはミラクルアイテム 最近の鳥類学では、DNAによる分類が進んできており、形態による分類は見直されてきている。たとえば、ハヤブサはタカの仲間だと考えられていたが、分子分類の結果、スズメやオウムと近縁で、タカの仲間ではないということがわかってきた。また、サギはコウノトリの仲間だと思われていたが、DNAではペリカンに近いことがわかってきている。従来の形態分類で見抜けなかった、「他人のそら似」が暴かれつつある。[58]  

 

Section 2  恐竜の種、鳥類の種 ◎恐竜学的不確実性 

ある恐竜が、骨の形態の似た別の恐竜と、同種だったのか、別種だったのか、侃々諤々-かんかんがくがくの議論になることがある。

なぜそれほど議論になるのかというと、そこに明確な基準に基づいた結論を出すことが難しく、どちらのほうがもっともらしいか、という相対的な議論になってしまうからだ。真実の正解を誰も知らないなかで、どちらが正しいかを結論づけることは、容易でないことが想像できるだろう。[72]

 

Section 恐竜が鳥になった日 まずは爬虫類からはじめよう 鳥類が恐竜起源だということは、鳥類は恐竜の一系統であり、恐竜は絶滅していないことになる。恐竜が生き残っていたとなると、それは非常にセンセーショナルなことだ。なにしろ、あの有名なフライド・チキンもフライド・ダイソナーになってしまう。KFDだ。[75]                   

 

◎恐竜起源説、再興 

恐竜からDNAを取り出し、鳥と比較することには、まだ成功していない。

しかし、DNA以外の分子を用いた研究は行われている。それは、ティラノサウルスの骨から抽出したコラーゲンを分析したものである。コラーゲンはタンパク質の一種で、多数のアミノ酸を含んでいる。2007年に、このアミノ酸の配列を分析した結果、ティラノサウルスは、ワニやトカゲよりもニワトリやダチョウと近縁であることが明らかになったのだ。 [83]

 

第2章●鳥は大空の覇者となった 

Section 1  鳥たらしめるもの 鳥は翼でできている

鳥は、空を飛ばなくてはならない。飛ぶためのエネルギーを発生させるには、酸素が必要である。筋肉のなかには、ミオグロビンというヘモグロビンに似た赤い色素がある。ミオグロビンは、酸素と結びつき貯蔵する性質がある。空を飛ぶ鳥は、筋肉に多くのミオグロビンをもつため、飛翔に必要な酸素を貯蓄でき、それゆえに赤い筋肉をもつ。長距離を回避するマグロの筋肉が赤いのと基本的に同じ理由だ。空を飛ばないニワトリには、ミオグロビンがそれほど必要ないため、肉の色が薄いのである。飛翔を常とする鳥の筋肉は、赤いことを覚えておいてほしい。 [104]                       

 

Section 2 羽毛恐竜は飛べるとは限らない 羽毛の進化はなんのため?

鳥にとって独特の特徴だと思っていた羽毛は、恐竜時代に発達したと考えられるようになり、現在の恐竜学のなかでは、多くの恐竜に羽毛が生えていたことは共通認識となってきている。じつは羽毛は、鳥類だけではなく、さまざまな恐竜にとって普通の器官だったかもしれないのだ。 [112]

鳥の体は体羽に覆われており、体全体を怪我や衝撃、寒さなどから守っている。

外からは見えないが、その下には綿羽と呼ばれる綿毛のような羽毛が生えており、保温の役割を担う。そして、羽毛にはさまざまな色がついており、ときには捕食者からのカモフラージュのため、ときには繁殖のディスプレイのためにも活躍する。じつは、このような飛翔以外の機能こそが、初期の羽毛がもっていた機能だったのだろうと考えられている。[114]

 

Section 3 二足歩行が鳥を空に誘った 鳥と恐竜、どうちがうか

鳥の祖先が獣脚類のなかから枝分かれしてきたのは、獣脚類たちが積極的に前脚を小型化させていくよりも古い時代と考えられる。獣脚類では、もてあます前脚への対処方法として、小型化と翼化の二つの道筋があったということだ。

つまり、鳥の祖先は、翼をもつことと引き替えに腕という便利な重要機関の機能を失ったのではなく、体のバランスを保つために退化していく腕という黄昏の器官を、飛翔という別の用途に転用していったのではないかと考えられる。鳥が空を飛ぶという偉業を成し遂げることができたのは、不要器官のリサイクルというちょっとエコな感じのする進化の道をたどったからなのだ。[133]

 

Section 5 鳥は翼竜の空を飛ぶ 羽毛は皮膜より美しい 

鳥は、基本的には翼を打ち下ろすときに推進力を得る。ただし、打ち下ろすためには翼を再びもち上げなくてはならない。このときに、空気抵抗が大きいと体が下に下がってしまう。しかし、羽毛には重なり構造がある。このため、翼をもち上げるときには、羽毛と羽毛の間に空気を通過させることで、空気抵抗を減らすことができる。もちろん打ち下ろすときには、羽毛は密着し、空気を逃がすことはない。この機能により、鳥は羽ばたき時に体を安定させて飛ぶことができる。このような用法は、皮膜では難しく、鳥の羽ばたき飛行をより効率のよいものとしている。

これらの利点は、羽毛が当初は飛行器官ではないものとして進化してきたことにより得られたと考えられる。最初から飛行器官としての機能が期待されていると、どうしても皮膜のように単純で、小さくても機能する器官が必要であり、羽毛のように複雑な構造物は進化しなかっただろう。          

 

Section 6 尻尾はどこから来て、どこに行くのか 恐竜の尾と鳥の尾

ティラノサウルスをはじめとして、二足歩行の恐竜の体全体のバランスを考えると、頭が大きく、それを支える首と胴も相応な太さをもっている。これを2本足で支えるわけだが、上半身だけ立派だと前のめりに転んでしまう。この前半分に対してバランスをとるためのおもりとして、太く長い尾が後ろに伸びているというデザインである。横から見ると、やじろべえ状態だ。普通に生活をする上でも、尾を引きずっていると摩擦が大きく邪魔で運動効率が悪いだろう。

実際に、世界各地から多くの足跡化石が見つかっているが、そこでは尾を引きずって歩いているような痕跡は発見されておらず、尾を上げた姿勢は妥当なようだ。[174]                              

つまり、尾は単なるおもりではなく、走るための巨大な筋肉の格納庫であり、その支えとなっているというわけだ。巨大な尾は、大きな体を動かす筋力を発生させる重要な器官であると考えられる。そう考えると、あの尾は推進装置の一部といってよいだろう。                     

 

Section 7 くちばしの物語は、飛翔からはじまる すべては飛翔からはじまった 鳥のくちばしは、歯のある口の代わりに生まれたのではない。むしろ、手の代用品として生まれたというべきだ。オウムの仲間では、木を登るときに、足だけでなくくちばしでも枝をつかんで、まさに手のように使用する。「くちばし=手+口」という公式を作り、理科の教科書に載せ、試験前の高校生に暗記させたいぐらいだ。 [193]          

 

ドミノ式進化の結末 

ここで、敬意をこめて今までの認識を改めたい。鳥は「歯を失った」「腕を失った」「尾を失った」のではない。空を飛ぶふめに、むしろ「歯や腕、尾を捨てた」と表現されるべきである。鳥の体には、進化の歴史がぎゅうぎゅうにつまっている。 [196]                

 

ここまでで、折り返し点の少し前あたりか。

この後、「第3章無謀にも鳥から恐竜を考える」へと突入。

よりエキサイティングな考察(妄想?)が披露される。

もっと&しっかり読みたい人は、「元本」を入手しておくれ。

 

ではでは、またね。