『枕元の本棚』津村記久子 /引用三昧 4冊目

第一巻 絵本と児童書  ことわざ絵本/ことわざ絵本PART-2 五味太郎

幼稚園から小学校に上がる時分に、いちばんそばにあって手に取った本だと思う。まず、ボリュームがある。一度開いたら、かなり長い間眺めていられる。

そしてどのページからでも読める。といってもそれは大人の読み方で、子供の頃は最初から最後まで生真面目-きまじめに読んでいたのだが、五味さんのイラストは掛け値なしに愉快だし、ときどき差し挟まれる毒気も、日々幼稚園や小学校低学年のお花畑的な世界が物足りなくなる中で魅力的だった。わたしが、今自分が知っていることわざを覚えたのはすべて、他でもないこの本と、『PART-2』からだった。[19] 

  

第二章 ごはんと生活  まいにちトースト たかはし みき 

『まいにちトースト』、もう、何回も何回も何回も読んだ本である。朝ごはんになり、昼ごはんとしても食べられ、三時のおやつにも、そしてのっけるものによっては晩ごんにも、おつまみにもなる、あらゆるジャンルのトーストを網羅し、紹介してくれるこの一冊は、安価で手軽でも、おいしいものはいくらでも食べられる、という勇気と、何を食べたらいいのかわからない時は、とりあえずこれを開いたら三十分以内ぐらいには満足できる、という安心感を与えてくれる。[37]

 

生活図鑑 『生きる力』を楽しくみがく おち とよこ/文、平野恵理子/絵

『叡智の結晶』とでも言いたくなるような、生活に関するあらゆる事を網羅する、密度の濃い、そして尊敬すべき一冊である。390ページを越える厚さに対し、「食・衣・住」の三つに大別された150を超える項目が、基本的なことからややマニアックなことまでひしめいている。たとえば「食」に関してだと、ご飯の炊き方から、農薬・添加物の落とし方、ナプキンの折り方まで、「衣」では、洗濯の原理に始まり、シミ抜きのコツを紹介して、ゆかたのたたみ方をも説明する、そして「住」は、そうじの心得えから説き、ダニ対策について諭-さとし、カツアゲにどう対処するかを教えてくれる。[44]

 

この方法で生きのびろ! ジョシュア・ペイビン、デビッド・ボーゲニクト

人が、自分は当たり前に身を守っているんだ、としている水準はまちまちである。あまりにそれぞれが違いすぎて、「身を守ること」は、趣味の一ジャンルとしてもいいようにすら思う。園芸、とか、ハイキング、とか、クラブ通い、といったものと並列の「身を守ること」である。そして、身を守ることにこだわる人の根底には、「危険への興味」があるように思える。件-くだんの防犯意識の高い友人は、怖い話も好きなのだそうだが、これは裏腹のようでいてけっこう納得できる話である。怖い話を好むのは、実は人間の本能で、怖い話に興味が持てないと、大昔の生活様式では、あの森のあそこに落とし穴があって危ない! というようなことを知るすべがなかったから、とも聞いたことがある。その友人は、おそらく危険への本能が非常に強いのだろう。[53] 

 

第三章 開いたページを読んでみる ワーズ・ワード コンパクト版

ジャン=クロード・コルベイユ、アリアン・アーシャンボウ

それから十年以上経ち、『ワーズ・ワード』は今も調べものに使っている。Googleはたしかに万能に近いけれども、一覧性では『ワーズ・ワード』の方が未-いまだに勝っている。そして何より、この本はとても美しい。きれいな景色や容姿に恵まれた人々、技術の粋を凝らした絵画や工芸品など、視覚的な幸福は数有れども、『ワーズ・ワード』は、そういったものに触れなくても、ただそこにある物の中に、美は存在するのかもしれないと感じさせてくれる。 [69]

 

チェスタトンの現代用語事典 ピーター・ミルワード/編

わたしが十代の頃に読んで、とても感心した「自殺者」という項目には、以下のようにある。「自殺者が殉教者の正反対であることは誰の目にも明らかである。(中略)これにたいして自殺者は、自分以外の何物にもあまりに関心を持たぬ結果、もうこれ以上何も見たくないと思う人のことである」。膝を打った。なるほど。自分のことしか考えられなくなった挙句、自分を殺すというところにまで至るのかと。「自慢」もいい。「比較的に言って、人格をそう傷つけない自慢は、自分自身にはまったく名誉とならないようなものについての自慢である。

したがって、自分の国を自慢することは少しも害にならないし、はるか遠い先祖を自慢することも比較的害にならない」。この後、財産、知恵、と害の度合いは増すとチェスタトンは述べて、最後に一撃をくだす。「そして、地上でもっとも貴いもの――善を自慢するのはいちばん悪い」。[76]

 

世にも奇妙な職業案内 ナンシー・リカ・シフ

仕事は、やりたいやりたくない以上に、向き不向きが左右すると思う。やりたかったけどあまり向いていない仕事も、やりたくはなかったけれども向いている仕事もある。いろいろあって、わたしは後者の方が幸せなんじゃないだろうかと思うようになった。                      [123]

 

100の思考実験 あなたはどこまで考えられるか ジュリアン=バジー

この本は、ほどよく充実した内容と、ふんだんな思考のトリガーに溢れている。帯の、これは道徳哲学における「数独」の本だというのは確かで、わたしたちは自分を毒する雑念を上書きするために、面白い問題を常に必要とするのだ。人間はつくづく、金や情痴や宗教や政治や、それらをひっくるめた安定だけでは生きていられない。[129] 

 

今回は、折り返し点の少し前まで。

もっと&しっかり読みたい人は、「元本」をあたっておくれ。

ではでは、またね。