右往左往する"野郎ども"の物語。 『三人屋』『サンドの女 三人屋』 原田ひ香 周回遅れの文庫Rock

ときにシビアで深刻なストーリーが展開するものの

読中読後の印象は、スッキリさわやか。

変な褒め方かもしれないが、とっても"気持ちのいい"小説だ。

 

三女(朝日)・次女(ひなた)・長女(世月)の三人姉妹が

同じ店舗で営業時間を分け合い

それぞれ朝(パン屋)、昼(うどん屋)、夜(スナック)を始める・・

という、かなりヘンテコな状況から物語は幕を開ける。

三人一緒に力を合わせりゃいいのに、なんでわざわざセパレートするのか?

まずはそんな疑問を抱えながら、ページをめくることだろう。

 

やがて読者は、三人姉妹の仲があまりよろしくなく

なかでも、過去何度も家出を繰り返したという長女とシングルマザーの次女が

直の会話を拒むほど、劣悪な関係にあることが分かって来る。

・・となると、本作の目指すゴールは〈三姉妹の和解〉なのかな?

なんて、裏読みマニアのうたたは、ストーリー展開を予想したりする。

 

確かに、『三人屋』というタイトルが匂わせるように

本作(続編も)は、複雑な"事情"を背負ったこの三姉妹を中心に動いてゆく。

とはいえ、実際にストーリーを転がすのは、彼女たちではない。

目次を見れば明らかなように

「――の場合」で並んだ各ブロックの「語り手」は、いずれも男性。

三姉妹の父親(故人)を除けば、全員が店に訪れる〈男性客〉なのだ。

この"第三者目線"のおかげで、ウエット一辺倒に陥りかねない三姉妹の過去も

思いのほかドライかつサバサバと描かれてゆく。

身も蓋もないいい方をすればーー過ぎちゃったものは仕方ないよねー。みたいな。

ときおりぷかりと物語の水面に浮かび上がる三姉妹の"本音"にも

同じような、あっけらかんとした「達観」が透けて見える。

さまざまな女を見てきて、夜月は思う。女の幸せは、容姿も身丈も性格も頭脳も性の嗜好も関係ない。ただ、運だけなのだと。本人にはどうしようもない運なのだと。136p

 

こうして、彼女たちの"内面の深み"には決して踏み込まぬまま

同じ商店街で育った幼馴染や常連客、新規参加者(男性)の奮闘?によって

こんがらがってダマになっていた三姉妹の過去は少しずつ解きほぐされ

三人が三人とも、以前より"居心地の良い場所"へと収まってゆく。

 

だけど、改めて読み直すと、その〈成果〉は

彼女たちが成長し、何かを乗り越えたことで手にしたわけじゃないんだよね。

実際に、夢を見たり挫折したり変わっていくのは、周りの男たちばかり。

結婚しようと、別れようと、よしんば街を出ていこうとも

三人姉妹の"根っこ"は、ひとっつも変わらない。

 

そんなわけで、

ワケあり三姉妹と常連たちの味わい深い人情ドラマ!(『三人屋/裏表紙』)

と謳い上げられた本作(続編も)を、自分流に紹介するならば――

 

美人三姉妹に振り回され右往左往する、"懲りない男ども"の物語!

・・ってところかな。

 

なんか、ケチつけてるように受け取られると心外なので

念のために、付け加えておくけど。

二作とも、メチャクチャ面白いことは間違いない!

 

ではでは、またね。