何度読んでも、胸が熱くなる。 『GUNSLINGER GIRL(全15巻)』相田裕 周回遅れのマンガRock

ひとことで言うと

「殺し屋として身体強化された女の子たちの物語」だ。

しかし、いわゆる"美少女戦隊"的な超人的ヒロインが活躍するわけではない。

むしろその内実は、暴力・犯罪・テロリズムなど

正視に耐えない現代の醜い面に、正面から向き合っている。

 

舞台は、90年代あたり?のイタリア。

ひと頃の北アイルランドのように

南北の経済格差が火種となるテロ行為や暗殺が横行し

通常の警察・軍隊では平和を維持できない状態に陥っていた。

そこで政府(の秘密部門)は、社会福祉公社という〈仮面組織〉を設立。

国中から集めた障害者に最新科学で強化した機械の体を与え

政府の為の汚れた仕事を請け合う「特殊戦闘員(義体)」として育成。

様々な犯罪行為が行われる最前線に投入しはじめた。

 

ただし、敵の警戒心を弱める意図もあり、「戦闘員」は10代前半の少女ばかり。

しかも改造される子供たちの多くは、本当の意味で"体が不自由な者"は少なく

保険金ほしさに実の父親にひき殺されたかけたり

家族全員を殺害され、その現場で自身も暴行・凌辱を受けたり

四肢を切断されながら犯される映像のネタにされたり・・・など

心身両面での致命傷を負った、"被害者"が大半を占める。

 

そこで各義体には、失われた身体機能の回復と同時に

〈条件付け〉と呼ばれる強い"洗脳"が処置され

トラウマに直結する過去の記憶を消去し

代わりにパートナーとなる担当職員に対する絶対服従と強い愛着を植え付けられる。

ちなみに義体と担当者は、常に一緒に行動するため

二人まとめて"フラテッロ(兄弟)"と呼ばれる。

 

新しい体と記憶を得た少女たちは

あどけない子どもの顔でマシンガンや拳銃を撃ちまくり

強化された四肢で次々と敵を打ち倒してゆくのだが・・

目覚ましい活躍と歩調を合わせるように表面化していく〈問題〉があった。

少女たちが担当者に注ぐ"強固な執着"が

〈条件付け〉によって植え付けられた「絶対服従」なのか

自由意思による「恋愛感情」なのか、本人にもわからなくなっていくのだ。

 

だだでさえ、洗脳によって忌まわしい記憶を封印し

文字通り"生まれ変わった"義体たちにとって担当者は

卵の殻を破った鳥のヒナが最初に目にする親にも等しい、絶対的な存在である。

ときには担当者への強すぎる執着が、少女たちの心を暴走させ

"この想いが報われないなら、相手を殺し自分も死のう"という極限状態に追い詰める。

 

しかも、義体にほどこされる〈条件付け〉の程度は

"フラテッロ"を組む担当者の希望によって、大幅に異なってくる。

実際、序盤だけでも主要な「少女と担当者のペア」は4組登場するのだが

4つのフラテッロ内の人間(恋愛)関係は。みな別物なのだ。

さらに義体のなかには、途中で担当官を失った少女や

最初期に開発されたため記憶の劣化が進み

担当者に対する愛着以外忘れてしまった少女までもが登場する。

 

そんな彼女たちが、ときには普通の女の子と変わらないやりとりを交わし

次の瞬間には、情け容赦ない殺戮マシーンとして銃撃の最前へと飛び込んでゆく。

このやるせない酩酊感を味わうだけでも、一読の価値はある。

 

そうだ。

忘れていたけど、彼女たち(義体)の「余命」は短い。

大量の薬剤を投与して、身体強化(修復)と〈条件付け〉を維持しているため

個体差はあるが、おおむね数年(たぶん3~5年程度)で限界を迎え、脳死を迎える。

要するに彼女たちは、心身両面で"大人になる"ことができないのだ。

 

少女(義体)の話ばかりしてしまったけど

"フラテッロ"の片割れである「担当者」の内面も、深く掘り下げられていく。

実は彼らもまた、内紛や裏切り、テロなどの標的となり

様々な傷を心と体に刻み込まれてしまった、犠牲者に他ならない。

だからこそ、ときには自分が担当する義体に亡き妹の面影を重ねたり

敢えて義体を「道具」と割り切り、個人的な交流を許さなかったりする。

・・担当者と義体の間に生まれる「共鳴」「反発」「依存」などなど

複雑に絡み合う心の動きにも、ぜひ注目していただきたい。

 

それから、「敵」についても触れておかないと。

テロリストに代表される彼ら彼女らにも、切実な想いを抱える者が少なくない。

その動機が、肉親や兄弟・親友を殺されたことへの復讐だったりするから

これまた安易に「絶対悪」と断ずることは難しい。

結局、どこかで誰かが「もうやめよう」と言わない限り、敵討ちの連鎖は続くのだ。

 

ともあれ、最終巻が発売されてから10年近い歳月が過ぎている。

だが、今回何度目かの再読をしてみたら、やはり胸が熱くなりっぱなしだった。

それどころか、容赦ないウクライナ侵攻が続くさなかだったせいか

これまで以上に、激しく心が揺さぶられてしまった。

 

とりわけ、最終15巻へとなだれ込んでゆく2冊は、まさに圧巻だ。

限られた命を燃やし、死地に向う少女ら。

その強い想いを正面から受け止める、担当官たち。

ひとつひとつの"フラテッロ"が、そして選びとる未来と運命に、涙が止まらない。

 

そして、最終話『希望』。

これぐらいのご都合主義は、むしろ望むところだ。

誰だって、たまには言いたくなるよ。

ーーー世の中捨てたものではない、と。

 

ではでは、またね。