ヒロト君はいつだって 本音しか言えない。(2巻98ページ)
巷では「癒されるマンガ」として有名みたいだけど
3巻まで読んでみた印象は、ちょっと違った。
本音しか言えない・・というより
"本音しか言わないと決めた"ヒロト君という〈触媒〉によって
彼と関わる人々が、ちょっとずつ元気をもらって前を向いていく。
でもって、ついでに読者の背中も押してくれる。
ーーそんな、"応援マンガ"とでも呼びたくなる作品なのだった。
彼との交流によって元気をもらった「ばーちゃん」からのプレゼントだし。
ヒロト 何かをするのに、手遅れなんてないのかもね。3巻133p
美大への進学を機に同居した「なつみちゃん」のお尻を押して
自己嫌悪に満ちたひきこもり暮らしから引き上げたのも
大丈夫だって。なっちゃんは素直でカワイイんだから。1巻56p
――というヒロト君の"本音"だ。
高校からの友人・野口ヒデキが、夫婦生活に落ち込んでは「ひらや」へと避難。
決して小さくないパワーを貰っては家族の元へ戻るのも、同じ構造だろう。
サンキュー ヒロト。オレ頑張るわ、マジで。3巻54p
最初の頃は、ヒロト君の"能天気ぶり"に反感を抱いていた
不動産屋の「よもぎさん」も、少しずつ肩の力を抜きはじめ
ついに第3巻では、プールに響く"引き笑い"を披露することとなる。
では、その手に触れるものをことごとく黄金に変えてしまうミダス王のように
触れ合った人々に元気を与え続けるヒロト君、彼自身の〈未来〉はどこに向かうのか。
本人が変わらずに、他者を変質させていくのが「触媒」の定義ではあるが
「本音しか言えない」ヒロト君の"今"が
過去に経験した俳優業の挫折から生じたものならば
赤ん坊のような純真無垢さの証だとは、とうてい思えないのだ。
事実、毎日ひとつも悩み事がないかのごとく
バイト先の釣り堀との間を往復し、週一のプール通いでリフレッシュしたり
「ひらや」の庭先でラジオ体操や花火に興じるなど、"いつも通り"を繰り返そうと。
お気に入りだった和菓子屋が、知らない間に閉店していたり
親友のヒデキ君が、子供の発熱で一緒に遊べなかったり
様々な変化とともにヒロト君の平和な日常は、少しずつ、しかし確実に変容していく。
あらゆる生物に共通する原理・動的平衡で知られる
かの福岡伸一先生も言っているではないか。
「変わらないためには、変わり続けなければならない」と。
生きてゆく限り、ヒロト君もまた不変の〈触媒〉であり続けることはできず
止まっていた時計の針をどこかで動かし
変転してゆく未来を、自らの手で選ばなければならない。
なぜなら、それが"生きること"なのだから。
なーんて、七面倒臭いヘ理屈はさておき
いま何より気になってるのは、ヒロト君の未来なんかじゃなく
片付けられない"引き笑い女"・立花よもぎさんの
恋???の行方だったりする。
だからきっと、小難しいことなんか考えず
ひとりひとりのキャラクターに心を沿わせて、ワクワクドキドキ。
そんでもって案外大きな「元気」をもらっちゃうのが
いっちゃんシアワセな読み方、なのかもな~。
ではでは、またね。