全世代の胸を撃つ! 『ちはやふる』①~㊽(刊行中) 末次由紀 周回遅れのマンガRock

連載開始から15年目を迎えた、超傑作「かるた(百人一首)漫画」。

アニメ&映画などの大ヒットも含め

この作品によって"競技かるたが市民権を得た"と、すら言える。

・・てなことぐらい、わざわざ強調する必要はないし

魅力的な登場人物や緻密なまでの心理描写や

卓越したストーリー展開を力説するのも、いまさら感が強すぎる。

(本音では「ダディベア」と「スノー丸」についても、熱く語りたい!)

 

なので、ここでは一点だけ。

あまた存在する、学園スポーツ?ものとは、大きく一線を画する

本作の"凄さ"について、触れることにしたい。

 

それは――これが、競技かるた(百人一首)を通じて繰り広げられる

「高校生たちの闘いと成長の物語」、という枠組みから大きく外れていることだ。

 

もちろん、多くのスポーツ(競技)漫画において

家族や友人、師匠をはじめ先輩後輩ら〈かるた仲間〉など

登場人物の周囲を固める"脇役"たちの人生(過去)が紹介される例は

枚挙にいとまがない。

しかし、本作における、その"守備範囲"たるや、尋常ではない。

 

えっ・・いま、この人のストーリが始まるの!?

と思わず突っ込みたくなるタイミングで

意外なバイプレーヤーの"人生"iにスポットライトが当たり

しかも極めて丁寧に〈深彫〉りされてゆく。

結果、本来「少女漫画」に熱中する読者の年齢層を遥かに超えた

幅広い年代の読者に、強烈な共感と"代理体験"をもたらしてくれるのだ。

 

※ここからちょいネタバレになるので、未読の方はご注意を※

 

たとえば、数十年前に現役のかるた選手を引退し

現在では裏方に徹している、元かるたクイーンのおばさん(失礼)の

"積年の願い"が、ヒロイン・ちはやに託されてゆく。

また、第一線を退いた後も40年に渡って「読手」を務めてきた元クイーンと

彼女の熱意によって引退を撤回し、ふたたび晴れ舞台に姿を現わす

老(たびたび失礼)読手の"雄姿"など、胸を熱くさせるエピソードばかり。

ーーいや、そもそも、主人公の1人である綿谷新(わたやあらた)にしてから

名人戦の最終第五戦というキワッキワ!の場面で

亡き永世名人の祖父・始の"呪縛"と向き合い

いかにして〈自分のかるた〉を見いだすか、もがき続けている。

 

しかも、これら〔年長組〕のみならず

小中学生や園児・幼児にまで至る〔次世代年少組〕も次々登場。

文字通り、《競技かるたをめぐる過去×現在×未来》が

華麗かつ緻密に絡み合い、ひとつの巨大なタペストリーを編み出しているのだ。

ここまで"全世代"にストライクゾーンを拡げた作品には

めったに出会えるものではない。

 

ともあれ、連載15年目の50巻直前にして

ついに物語はクライマックスを迎えた。

果たして作者は、いかにして゛第1巻の冒頭シーン"へと読者を誘ってくれるのか。

本来なら、終了してから全巻読み通すべきなのだろうが

「2020年夏発売予定」の第49巻を待ちきれず

フライングしてしまった次第。

 

まだまだ、いくらでも話を続けることはできるけど

なにをどう書こうと〈どっかの受け売り〉みたいになってしまう。

ここは、あらためて魅力を噛み締めるべく

自己満足でしかない、名言の引用でお茶を濁すこととする。

 

太一 青春ぜんぶ懸けたって 新より強くはなれない。

原田先生 "青春ぜんぶ懸けたって強くなれない"?

     まつげくん

     懸けてから言いなさい。            第2巻

 

ちはや じゃあ恋ってどんなのよ

太一  それはな―― ‥‥

ちはや —―

太一 そいつといても楽しくないってことだよ        第2巻

 

太一 かるたの才能なんておれだって持ってねえ

   きついけどやってんだ

   負けるけどやってんだ

   だって勝てたとき

   どんだけうれしいか‥‥っ               第3巻

 

宮内先生 負けと向かい合うのは大人になっても難しい

     でも‥‥

     あの子たち だれも慰め合わない          第5巻

 

駒野 「かるたなんて」って言って 通り過ぎないでよかった

   変わっていける きっと

   身体だけじゃなくて 心だけじゃなくて         第5巻

 

太一 おれの甘い攻めを西田はうまくさばいていた

   大山札の守り方も西田はうまかった

   まだまだだったんだ おれが

   きついな 一生懸命って‥‥ 

   言い訳がきかえねよ                  第6巻

 

駒野 やりたいことを思いっきりやるためには

   やりたくないことも思いっきりやんなきゃいけないんだ  第7巻

 

太一 先生 おれは

   A級になるより ‥‥

   逃げないやつになりたい‥‥              第7巻

 

 

駒野 おれ なにかの本で読んだことあるよ

   「ここにいたらいいのに」って思う人は 

   もう"家族"なんだって

   つきあいの長さも深さも関係なく            第8巻

 

――やばい。

また最初から読み返したくなってきた。

ここらでやめとこう。

 

それにしても、マンガだろうと小説だろうと

いっときでも「現実」を忘れさせてくれる物語の世界って

やっぱ、すげーよな。

 

ではでは、またね。