世界は今日も滅亡の淵で踊る 『国のない男』カート・ヴォネガット 周回遅れの文庫Rock

戦後アメリカを代表する作家カート・ヴォネガット

2007年に亡くなる2年前に刊行した、遺作エッセイ集。

「当エッセイで軽妙に綴られる現代社会批判は、まるで没後十年を経た現在を予見していたかのような鋭さと切実さに満ちている」

という一文が、2017年出版の文庫本巻末に載っていた。

しかし、さらに5年が過ぎた2022年3月。

本書の〈鋭さ〉と〈切実さ〉は、いよいよ胸に突き刺さり、背筋を凍り付かせる。

 

今からちょうど100年前に(ってことは、生誕百年になるのか)

アメリカで生まれた著者が振り下ろす"一撃"の相手は

アメリカ合衆国とその国民(主に指導者層)だったりする。

だが、歯に衣着せぬ痛快な"捨て台詞"の数々は

新大陸の地面を深々と貫き、地球の反対側に広がるロシアにまで到達。

被害妄想に囚われた独裁者の姿をも、くっきり映し出しているかのようだ。

 

たとえば、各章の扉に、彼自身の手書きよる短文が掲載されている。

本書を開いて、まっさきの飛び込んでくる言葉が、これだ。

THERE IS NO REASON GOOD CAN'T TRIUMPH OVER EVIL, IF ONLY ANGELS WILL GET ORGANIZED ALONG THE LINES OF THE MAFIA.

善が悪に勝てないこともない。                         ただ、そのためには天使がマフィアなみに組織化される必要がある。 〔8-9ページ〕

・・英文が載っていたので、つい気取って書き写してみたけど

前ページの対訳文(日本語)がなければ、半分も理解できない劣等生だったりする。

 

ともあれ、83歳のジジイが、

こんな調子でズバズバ、ザクザク、問答無用で斬り込んでくる。

われわれはここ地球で ばかばかしいことばかりしている。

だれにも違うとは言わせない。                   〔74ページ〕

 

アメリカが人間的で理性的になる可能性はまったくない。なぜなら、権力がわれわれを堕落させているからだ。絶対的な権力が絶対的にわれわれを堕落させている。人間というのは、権力という酒に酔っ払ったチンパンジーなのだ。       〔92ページ〕

 

ナパーム弾を開発したのはハーヴァードだ。Veritas!(ハーヴァード大学のスローガンで「真理」という意味)。                             うちの大統領はクリスチャンだって? アドルフ・ヒトラーもそうだった。       いまの若い人たちは本当にかわいそうだ。かける言葉もない。精神的におかしい連中、つまり良心もなく、恥も情けも知らない連中が、政府や企業の金庫にあった金をすべて盗んで、自分たちのものにしている、それがいまの世の中だ。    〔112ページ〕

 

そう、この地球はいまやひどい状態だ。しかしそれはいまに始まったことではなく、ずっと昔からそうだったのだ。「古きよき時代」など、一度たりともあったためしがない。同じような日々を重ねてきただけだ。だから、わたしは自分の孫にはこう言うことにしている。「年寄りに聞こう、なんて思うんじゃないぞ。おまえとちっとも変わらないんだから」                          〔162ページ〕

 

そうでなくても、ここ20日余りというもの

ず~~~っと、両肩に重くのしかかる気配を感じながら、生きている。

彼の地での戦火が鎮まらない限り、消えることはないのだろう。

わずかでも軽くなったと錯覚できるのは

誰でもいいから受け取ってくれ!!

とばかり、これらの"刺さる文章"を書き写しているときだけだ。

 

キリがないので、あとひとつだけ引用させてもらって

今夜のところは勘弁してやるか。

・・・・誰に向かって書いてるんだよ。           

            

ウィリアム・シェイクスピアも昔こう言っている。「悪魔も聖書を引くことができる。身勝手な理由にな」(『ヴェニスの商人』第一幕第三場)      〔139ページ〕

 

全世界を滅亡の瀬戸際まで追い込んだアメリカの愚行をあばきたてた

名著『オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史』(特に2巻)とともに

いま、このときにこそ、ぜひとも手に取ってほしい一冊だ。

 

ではでは、またね。