2004年にスタートした、息の長いミステリ・シリーズ。
11年ぶりに新作(『巴里』)が出たので
既読だった3作を含め、改めて最初から読み直した。
読後の率直な感想は・・
「コメディタッチのライトな学園ミステリ」という"売り文句"とは裏腹に
思いのほかヘヴィな後味が残る連作集だな、というもの。
主役の男女ふたり(小鳩くんと小山内さん)は、いずれも現役高校生。
当然行動範囲は日常生活&学校がらみがメインとなり
彼らの周囲で起きる事件やトラブルの大部分は、いわゆる「日常の謎」レベルだ。
そうした"ライトな謎"を、主に男子生徒(小鳩くん)が謎解きしてみせる
というオーソドックスな展開である。
(消えたポシェット、おいしいココアの謎、自転車盗難事件、あと誘拐?事件も)
なのでストーリーそのものは、「学園ラノベ」に近い軽いタッチで終始。
随所に登場する絶品スイーツ(小山内さんは大のスイーツマニア)の効果もあって
あくまで〈フツーの高校生ライフ)が綴られていくのだが・・
その背後には、常に重たい気配が、どよ~んとわだかまっているのだ。
なぜなのか?
理由は、小柄で童顔なボブカット少女・小山内ゆきに秘められた
外見からは想像もつかない"隠れキャラクター"にある。
ちなみに同学年の小鳩くんは、「ひとこと多い探偵キャラ」。
他の生徒たちよりかなり頭の回転が速く、観察力・推理力ともに抜群なため
ついつい、"先回りして正解を出してしまう"ため
感謝どころか逆恨みを買うハメになる、いわば"お節介なホームズ"か。
「ぼくは気づいたんだよ。 誰かが一生懸命考えて、それでもわからなくて悩んでいた問題を、端から口を挟んで解いてしまう。それを歓迎してくれる人は、結構少ない。感謝してくれる人なんて、もっと少ない。それよりも、敬遠されること、嫌われることの方がずっと多いってね!」
(『春季限定いちごタルト事件』200ページ)
注意すべきは、そんな小鳩くんと(便宜上!)ペアを組んでいる、小山内ゆき。
実は彼女には、愛してやまない"モノ"が、ふたつある。
ひとつは、誰もが知っている「おいしいスイーツ(店)の食べ歩き」。
ふたつめが、パートナーの小鳩くんしか知らない――復讐衝動。
そう。小山内さんは、自分を害した相手に復讐(仕返し)することに
スイーツに対する以上に、熱中してしまうのだ!!
「執念深いのがわたしの性格。口を出したがるのが小鳩くんの性格。それはもうどうしようもないって、諦めない? どれだけ自分を胡麻化したって、結局ぼろが出ちゃうんだもの」 (『春季限定いちごタルト事件』243ページ)
従って、同じ高校に通ってはいるものの、二人の間に恋愛感情は存在しない。
小山内さんとぼくとはよく行動を共にするけど、それはあくまでも目的あってのものだ。ぼくと、そして小山内さんも掲げる大目標、目の前にあるようでいてつかみ取れない六等星、「小市民」。ぼくたちは日々を平穏に過ごす生活態度を獲得せんと希求し、それを妨げる事々に対しては断固として回避の立場を取る。そしてトラブルもしくはその萌芽からいち早く手を引くために、お互いの存在を利用するのだ。
(『夏季限定トロピカルパフェ事件』17ページ)
要するに、日常生活で突出しないよう、互いに監視し、フォローし合うという
〈パートナーシップ〉を構築しているのである。
心穏やかで無害で易きに流れる、誰にも迷惑をかけない小市民になるべく互恵関係を結んだあのふたりが帰ってきました! (『巴里マカロンの謎』冒頭の作品紹介文より)
とはいえ、どれほど隠し通そうと頑張ったところで
垣間見えてしまうのが、「本性」というもの。
小鳩くんの《探偵気質》は、地力他力ふくめて随所でダダ洩れとなり
小山内さんの《復讐志向》は、どんどん周囲に大きな波紋を広げてゆく。
その結果、シリーズ中盤では、小市民を目指す互恵関係を解体。
それぞれ他のパートナーと関係を築こうとするのだが
・・どちらも、相手の"物足りなさ"に失望。
1年の空白を挟んでモトサヤに収まるという、見事な"腐れ縁"ぶりなのだ。
しかし、紆余曲折の末の復縁にもかかわらず
小鳩くんと小山内さんの間からは、"ラブ臭"がまるで匂ってこない。
その不思議なまでのドライさが
なんだかーーものすごく、"心地よい”のである。
だから・・11年目にして、ようやく四冊目が登場。
小鳩くんと小山内さんは、高校三年生の冬を迎えたわけだが
(なかでも4編目「花府シュークリームの謎」の最終2ページは絶品!)
これで"オシマイ"にせず、ぜひとも大学編・社会人編と続けていっていただきたい。
――この先、ふたりの関係は、いったいどうなっていくのか?
それにも増して、小山内さんが自分の「復讐大好き!」にどう落とし前つけるのか?
気になって気になって、仕方がないのだ~~!
ではでは、またね。