いまだ多くのピースが埋まらぬまま
だからといって、あっさり捨て去ることもできず
頭の片隅にしまい込んでいた、壮大なジグソー・パズル。
まさかそれが40年後、再び新たなピースを創り始めるなんて・・!
『春の夢』扉ページの見返しに記された〈作者のことば〉で
絵も顔も変わりました。歳月を感じます、とあるように
確かに、最初は絵柄やタッチの変りように小さくない違和感を抱いた。
そして偉そうにも――
登場人物の言動が唐突だし、ストーリー展開も強引すぎる。
なによりも、細かな部分での筆遣いの粗さが"らしくない"。
やっぱり、「俺のポー」は40年前に終わっていたようだな。
ーー一読しただけで硬直した評価を下し
書棚の"保留エリア"に放置していたのだった。
ところが次作『ユニコーン』で、早くもその「評価」が崩れてゆく。
冒頭の一篇『わたしに触れるな』に、"彼"が登場する。
しかも舞台は2016年、ドイツ・ミュンヘン。
そう。1976年の、あの火災以来、行方知らずだった主人公エドガーが
これまた40年の時を経て、ついに元気?な姿を見せる。
さらに、本作からエドガーとアランの運命に深く関わっていた
新キャラクター、バリー・ツイストが登場。
あちこちの時代に飛びながら
ポーの一族と二人の主人公を取り巻く、"謎"と"欠落"を
ひとつひとつ、丁寧に埋めてゆく。
壁一面を覆うタペストリーにも似た、巨大ジグソーパズルの空白に
精緻なピースが、寸分の狂いもなくピタリと収まるように。
加えて、読者(俺だ)にとって都合のよいことに
1冊、2冊と読み継ぐうち、当初は引っかかっていた"絵柄の違い"も
いつのまにか気にならなくなってゆく。
何事にもすぐ"慣れて"しまう人間の〈いいかげんさ〉も
たまにはマシな働きをしてくれるものだ。
ともあれ、こうなってしまうと
〈40年目のリスタート〉に批判的だった当初の姿勢など
もはや、欠片も残らない。
続く2冊『秘密の花園1・2』は
あの『ランプトンは語る』に登場した10枚の肖像画と1枚の部屋の絵が
どんな経緯で描かれたのか、つまびらかにする物語だ。
主要関連作品『ランプトンは語る』はもちろん
ジョン・オービンが登場する『ホームズの帽子』『エディス』
マルグリットが登場する『グレンスミスの日記』を読み返しながら
1ページ1ページじっくりと読み解いてゆくひとときは
ちょっと言葉にできないほど魅了され、心温まるものだった。
そして同時に、こう思った。
この〈満たされてゆく感覚〉は、きっと自分のように
作者と共に40年の歳月を生きてきた者だけが享受できる
《時からの贈り物》に他ならないのだ、と。
調子に乗った勢いを借りて、もう少し書いてしまおう。
あの遠い日々、次々と発表される『ポーの一族』の新作を
リアルタイムで読むことができて、ラッキーだった。
40年の時を経て、再び動き始めた物語に出会うことができて、幸せだ。
ーーここまで生きてきて、本当によかった。
まさにこれこそが、"同時代を生きる醍醐味"だったりするのだよ。
ではでは、またね。
心の中にずっといてくれました。
エドガーもアランも。
私も再び彼らと会えてうれしい。