商売上手が作った「別世界」 京都ふたり旅 2021.10.4-7 3日目(その4) 北之庄ラ・コリーナ/近江八幡

2021年10月6日(水) 近江八幡&近郊(北之庄ラ・コリーナ

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         本館の屋根。わざわざ草を植えている。

 

日牟禮八幡宮を出て大鳥居を潜り、大杉町の停留所まで戻ったところで

折よく、長命寺行きのバスがやってきた。

これ幸いと乗り込み、4つ先のバス停「北ノ庄ラ・コリーナ前」で

今度こそ、下車する。

道路からは見えないように生垣で囲まれたアプローチを進み

入口へ向かって歩くその間にも、ひっきりなしに車が出入りしていく。

自家用車でこの道を通る観光客の半分ほどは、立ち寄っているんじゃないだろうか。

ともあれ、背丈よりも高い壁のような生垣を通り抜けると・・。

 

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      見事に演出された"異世界"ぶり。確かに一見の価値はある。

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      逆サイドからも、一枚。凸凹地面の"演出"が憎い。

 

・・・突然、目の前に〈異世界〉が広がる。

まったく整地されていない(ように作った)凸凹の草原(っぽい前庭)に

獣道のように不規則にくねった通路が、3筋、4筋。

円周からその中心に向かって収束するかたちで

前庭の向こうにうずくまる、平べったい三角屋根の建物へと続いている。

その建物は、壁はもちろん、屋根の上に至るまで、緑の草だらけ。

どこぞの古い洋館のように"蔦を這わせる"レベルではない。

建物全体が、完全に、すっぽりと、緑の草に覆われているのだ。

あたかも、放棄されて何世紀も過ぎた廃墟のように。

――なるほど、こりゃあ『ラピュタ』だよな。

 

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    普通の行列風景より、ズラした貼り紙の"演出感"に目が行ってしまった

 

だが、緑の塊に押しつぶされそうな狭い戸口をくぐって、建物に入ると。

そこは、バターとクリームの匂いがいっぱいに漂う、洋菓子屋さん。

(厳選された)スイーツを販売する

いわば洋菓子&軽食のセレクトショップなのだった。

しかも、建物のいたるところ、人、人、人の姿でいっぱい。

いったいどこにこれほどの観光客がいたのか、と思うほどの賑わいだ。

とりわけ入ってすぐ右手のエリアに、30人ほどの長い行列ができていた。

何事!? と驚き、大書されたキャッチコピーを読むと

「なにかのコンクールで賞をとったバウムクーヘン」なのだとか。

みなさん、これが最大の目当てらしく、出口へ向かう半数以上の手に

バウムクーヘンの店名が記された袋があった。

 

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                 中庭を囲むように建つ姿には、ガウディっぽさも。

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          どこか飛行船を思わせる左の建物は「オフィス」。

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      これも近江八幡の伝統行事? 田んぼで働く(っポイ)人々

 

まさか、これら洋菓子を売るためだけに

ここまで手の込んだ建物を作ったってのか? 

半ば呆れつつも、入口の建物を抜け、円形にしつらえられた中庭に出る。

すると、そこもまた手作り感満点の草地・・ではなく

今度はなんと、あぜ道の内側に田んぼがこしらえられており

幾人かの若者が、農作業(っぽいこと)に勤しんでいた。

どう考えても、ここで育てた麦でスイーツを作っているとは思えないので

(田畠の面積は狭く、実際に栽培したとしても規模が小さすぎる)

おそらく、"里山の風景"を演出しているのだろう。

いったいなんのために?

――もちろん、客寄せのためだ。

 

さほど広くない中庭(自然っぽい)を囲むように

やはりアプローチの「ラピュタ」同様

"緑の廃墟"を連想させる、ガウディ風の曲線をつけた低い建物が

何棟か連なっている。

そのどれもが、スイーツや軽食、飲み物などを提供する売店やカフェだ。

やはり、この大袈裟な舞台設定を取っ払ってしまえば

どこをどう見ても、単なる〈スイーツ店の集合体〉にすぎない。

けれども、それを〈異世界(しかもラピュタ的)〉というラップで包むことで

インスタ映え」する、絶好の"観光スポット"へと生まれ変わらせたのだ。

 

ま、早い話。

ネズミーランド化に成功したスイーツ店』ってことだね。

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       こういう乗り物ショップも、「ランド」っぽいよね

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            こちらは、高級ハチミツショップ。

 

実際、至る所に可愛い形の岩山や穴居、小屋など、

子供が(大人も)喜んで遊べるようなスポットが用意してあり

誰もが退屈せず、思い思いに楽しめるよう、工夫が凝らされている。

いっぽう、トイレなど〈生活臭のある施設〉は、外から簡単に分からぬよう

奥まった通路の隅っこに設置されている。

これって、もう完全にテーマパークの手法だよな。

実際、入場者の大半は若いカップルや家族連れ、中高年女子グループだったが

それぞれお気に入りのスポットで、スマホを構え撮影やらインスタに勤しんでいた。

 

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           手頃なお値段で軽食&ドリンクも提供

 

敢えて周囲と隔絶した「別世界(異世界)」という「化粧箱」をこしらえ

その〈映え効果〉でネット世代の注目をゲット。

異世界」見たさでやって来た人々に、「受賞作」の高級バウムクーヘンを筆頭に

しっかりセレクトした、"ちょっと高いけど味は確かな"スイーツを

さまざまな仕掛けを凝らしたショップエリアで提供する。

お店だけでなく〈遊び場的要素〉も満たしたスポットだから

小さな子供も、大きな子供も、それぞれ退屈せずに過ごすことができる。

誰が仕掛けたのかは知らないが、ホントに商売上手だ。

 

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                                                うーん・・・もういいかな。

 

だけど、ひとつだけ

のどに刺さった魚の小骨のように、どうにも"ひっかかる"ことがあった。

この日の朝、近江八幡にやってきて

地元の観光協会が作った観光マップやパンフレットを入手。

事前に購入しておいたガイドブックも参考にして

"近郊の面白そうなスポット"を再確認したんだけれど・・

 

間違いなく、一番数多くの観光客が訪れている「ラ・コリーナ」を紹介する

写真どころか、一行の文章も見つけることができなかったのだ。

(観光マップにも停留所名と●ラ・コリーナという施設名が載るのみ)

おそらく「ラ・コリーナ側」も、宣伝してほしいと申し出なかったのだろう。

それにしても、この地元との乖離(断絶)ぶりは、尋常ではない。

 

ただ、容易に想像はつく。

この店が、地元・近江八幡の観光資源として、まったく役に立ってないことは。

ごく少数のバス利用者を除いて、少なくとも割は自家用車(レンタカー)で訪れる。

近江八幡観光」ではなく、あくまでも「ラ・コリーナ」が目的だ。

だから、スポット訪問(バウムクーヘン購入)を済ませれば

他にはどこにも立ち寄らず、遠く離れた町(京都とか大阪とか)へ去っていく。

なにしろ、「ラ・コリーナ」は、近江八幡の歴史とも伝統とも

ひとっつもリンクしていない《そこだけで完結した異世界》なのだから。

 

念のため、ホームページをチラ見してみたら

近江八幡の伝統文化」を紹介する行事とかも開催してるっぽいけど

この"滲み出てくる圧倒的な距離感"を前にすると

地元に溶け込んでいるとは、どうしても思えないんだよね。

いっそのこと、千葉県幕張駅前とか、USJの隣とかにあったほうが

両者にとって"幸せ"なんじゃないかな。

そんなふうに、ハムスターの回し車のように

見当違いの考察をぐるぐる巡らせていたのだった。

 

なんか不平不満ばかり並べちゃったけど。

売店(キッチンカー)で買って食べた和風スイーツは、おいしかったよ。

確か、生クリーム入りのどら焼きみたいなクレープ?・・だった。

決して安くはないが、味と品質は確かだと感じた。

だからといって、わざわざラピュタを作ったり里山プレイを見せる必要までは

どー考えても、ないと思うけどね。

ま・・それくらい「映え」は商売に欠かせなくなってきた。

ってことなのだろう。

 

ちなみに、我らふたりの「ラ・コリーナ」滞在時間は

上のスイーツ試食を含めて40分程度。

予定より1本早いバスで近江八幡駅まで戻り

駅前ロータリーにあるマックの100円コーヒーで時間を潰すことに。

 

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    ラ・コリーナ前バス停で一枚。普通の景色に、なんかすごいホッとした。

 

こうして当初の予定通り、17時06分発の快速に乗り

あたりが赤く染まり始めた17時42分、京都駅着。

その足で、駅前にそびえる京都タワーを目指す。

決してお金を払ってまで昇りたいとは思わないところだけど

無料となれば話は別だった。

 

ではでは、またね。