2021年10月6日(水) 近江八幡&近郊(北之庄ラ・コリーナ)
本館の屋根。わざわざ草を植えている。
日牟禮八幡宮を出て大鳥居を潜り、大杉町の停留所まで戻ったところで
折よく、長命寺行きのバスがやってきた。
これ幸いと乗り込み、4つ先のバス停「北ノ庄ラ・コリーナ前」で
今度こそ、下車する。
道路からは見えないように生垣で囲まれたアプローチを進み
入口へ向かって歩くその間にも、ひっきりなしに車が出入りしていく。
自家用車でこの道を通る観光客の半分ほどは、立ち寄っているんじゃないだろうか。
ともあれ、背丈よりも高い壁のような生垣を通り抜けると・・。
見事に演出された"異世界"ぶり。確かに一見の価値はある。
逆サイドからも、一枚。凸凹地面の"演出"が憎い。
・・・突然、目の前に〈異世界〉が広がる。
まったく整地されていない(ように作った)凸凹の草原(っぽい前庭)に
獣道のように不規則にくねった通路が、3筋、4筋。
円周からその中心に向かって収束するかたちで
前庭の向こうにうずくまる、平べったい三角屋根の建物へと続いている。
その建物は、壁はもちろん、屋根の上に至るまで、緑の草だらけ。
どこぞの古い洋館のように"蔦を這わせる"レベルではない。
建物全体が、完全に、すっぽりと、緑の草に覆われているのだ。
あたかも、放棄されて何世紀も過ぎた廃墟のように。
――なるほど、こりゃあ『ラピュタ』だよな。
普通の行列風景より、ズラした貼り紙の"演出感"に目が行ってしまった
だが、緑の塊に押しつぶされそうな狭い戸口をくぐって、建物に入ると。
そこは、バターとクリームの匂いがいっぱいに漂う、洋菓子屋さん。
(厳選された)スイーツを販売する
いわば洋菓子&軽食のセレクトショップなのだった。
しかも、建物のいたるところ、人、人、人の姿でいっぱい。
いったいどこにこれほどの観光客がいたのか、と思うほどの賑わいだ。
とりわけ入ってすぐ右手のエリアに、30人ほどの長い行列ができていた。
何事!? と驚き、大書されたキャッチコピーを読むと
「なにかのコンクールで賞をとったバウムクーヘン」なのだとか。
みなさん、これが最大の目当てらしく、出口へ向かう半数以上の手に
バウムクーヘンの店名が記された袋があった。
中庭を囲むように建つ姿には、ガウディっぽさも。
どこか飛行船を思わせる左の建物は「オフィス」。
これも近江八幡の伝統行事? 田んぼで働く(っポイ)人々
まさか、これら洋菓子を売るためだけに
ここまで手の込んだ建物を作ったってのか?
半ば呆れつつも、入口の建物を抜け、円形にしつらえられた中庭に出る。
すると、そこもまた手作り感満点の草地・・ではなく
今度はなんと、あぜ道の内側に田んぼがこしらえられており
幾人かの若者が、農作業(っぽいこと)に勤しんでいた。
どう考えても、ここで育てた麦でスイーツを作っているとは思えないので
(田畠の面積は狭く、実際に栽培したとしても規模が小さすぎる)
おそらく、"里山の風景"を演出しているのだろう。
いったいなんのために?
――もちろん、客寄せのためだ。
さほど広くない中庭(自然っぽい)を囲むように
やはりアプローチの「ラピュタ」同様
"緑の廃墟"を連想させる、ガウディ風の曲線をつけた低い建物が
何棟か連なっている。
そのどれもが、スイーツや軽食、飲み物などを提供する売店やカフェだ。
やはり、この大袈裟な舞台設定を取っ払ってしまえば
どこをどう見ても、単なる〈スイーツ店の集合体〉にすぎない。
けれども、それを〈異世界(しかもラピュタ的)〉というラップで包むことで
「インスタ映え」する、絶好の"観光スポット"へと生まれ変わらせたのだ。
ま、早い話。
『ネズミーランド化に成功したスイーツ店』ってことだね。
こういう乗り物ショップも、「ランド」っぽいよね
こちらは、高級ハチミツショップ。
実際、至る所に可愛い形の岩山や穴居、小屋など、
子供が(大人も)喜んで遊べるようなスポットが用意してあり
誰もが退屈せず、思い思いに楽しめるよう、工夫が凝らされている。
いっぽう、トイレなど〈生活臭のある施設〉は、外から簡単に分からぬよう
奥まった通路の隅っこに設置されている。
これって、もう完全にテーマパークの手法だよな。
実際、入場者の大半は若いカップルや家族連れ、中高年女子グループだったが
それぞれお気に入りのスポットで、スマホを構え撮影やらインスタに勤しんでいた。
手頃なお値段で軽食&ドリンクも提供
敢えて周囲と隔絶した「別世界(異世界)」という「化粧箱」をこしらえ
その〈映え効果〉でネット世代の注目をゲット。
「異世界」見たさでやって来た人々に、「受賞作」の高級バウムクーヘンを筆頭に
しっかりセレクトした、"ちょっと高いけど味は確かな"スイーツを
さまざまな仕掛けを凝らしたショップエリアで提供する。
お店だけでなく〈遊び場的要素〉も満たしたスポットだから
小さな子供も、大きな子供も、それぞれ退屈せずに過ごすことができる。
誰が仕掛けたのかは知らないが、ホントに商売上手だ。
うーん・・・もういいかな。
だけど、ひとつだけ
のどに刺さった魚の小骨のように、どうにも"ひっかかる"ことがあった。
この日の朝、近江八幡にやってきて
地元の観光協会が作った観光マップやパンフレットを入手。
事前に購入しておいたガイドブックも参考にして
"近郊の面白そうなスポット"を再確認したんだけれど・・
間違いなく、一番数多くの観光客が訪れている「ラ・コリーナ」を紹介する
写真どころか、一行の文章も見つけることができなかったのだ。
(観光マップにも停留所名と●ラ・コリーナという施設名が載るのみ)
おそらく「ラ・コリーナ側」も、宣伝してほしいと申し出なかったのだろう。
それにしても、この地元との乖離(断絶)ぶりは、尋常ではない。
ただ、容易に想像はつく。
この店が、地元・近江八幡の観光資源として、まったく役に立ってないことは。
ごく少数のバス利用者を除いて、少なくとも割は自家用車(レンタカー)で訪れる。
「近江八幡観光」ではなく、あくまでも「ラ・コリーナ」が目的だ。
だから、スポット訪問(バウムクーヘン購入)を済ませれば
他にはどこにも立ち寄らず、遠く離れた町(京都とか大阪とか)へ去っていく。
ひとっつもリンクしていない《そこだけで完結した異世界》なのだから。
念のため、ホームページをチラ見してみたら
「近江八幡の伝統文化」を紹介する行事とかも開催してるっぽいけど
この"滲み出てくる圧倒的な距離感"を前にすると
地元に溶け込んでいるとは、どうしても思えないんだよね。
いっそのこと、千葉県幕張駅前とか、USJの隣とかにあったほうが
両者にとって"幸せ"なんじゃないかな。
そんなふうに、ハムスターの回し車のように
見当違いの考察をぐるぐる巡らせていたのだった。
なんか不平不満ばかり並べちゃったけど。
売店(キッチンカー)で買って食べた和風スイーツは、おいしかったよ。
確か、生クリーム入りのどら焼きみたいなクレープ?・・だった。
決して安くはないが、味と品質は確かだと感じた。
だからといって、わざわざラピュタを作ったり里山プレイを見せる必要までは
どー考えても、ないと思うけどね。
ま・・それくらい「映え」は商売に欠かせなくなってきた。
ってことなのだろう。
ちなみに、我らふたりの「ラ・コリーナ」滞在時間は
上のスイーツ試食を含めて40分程度。
予定より1本早いバスで近江八幡駅まで戻り
駅前ロータリーにあるマックの100円コーヒーで時間を潰すことに。
ラ・コリーナ前バス停で一枚。普通の景色に、なんかすごいホッとした。
こうして当初の予定通り、17時06分発の快速に乗り
あたりが赤く染まり始めた17時42分、京都駅着。
その足で、駅前にそびえる京都タワーを目指す。
決してお金を払ってまで昇りたいとは思わないところだけど
無料となれば話は別だった。
ではでは、またね。