2021年10月4日(月) 新横浜⇒京都
次回はもっと涼しい頃に訪ねたい。お墓参りも忘れずに・・
生まれて初めての"ナマ若冲"に圧倒され
地に足のつかない気分で、承天閣美術館を後にする。
だが、そんな夢心地も、脳天を直撃する灼熱の陽射しによって
たちまちかき消されてしまう。
時刻は、午後1時半過ぎ。
夏場よりずっとましだが、想定外の猛暑日で最も気温が高くなる頃合いだ。
境内には若冲のお墓もあるようだったが
作品だけで充分"お会いできた"満足感を得られたので、そのまま失礼することに。
つば広の帽子をしっかり被り、日陰から日陰へと渡り歩いて東門から外へ。
実は、この後予定している散歩ルートには〈アンチョコ〉があった。
『京都の路地裏』(柏井壽著)だ。
書名の通り、京都の路地(ろーじ)歩きを紹介する新書で
その一例として、地図付きで紹介された「相国寺~出町界隈」と題するコース。
ただ元本だと、相国寺を北に出て時計回りにぐるっと巡る道筋だったが
極力炎天下を歩きたくなかったので、直接東へショートカット。
都の鬼門(東北)を守る、幸神社(さいのかみのやしろ、と読む)へ直行した。
何も知らなければ間違いなく通り過ぎていた、素朴な鳥居
グーグルマップで何度も現在地を確認しつつ、細い道を何度か曲がったところに
小さな石造りの鳥居があった。
普通の住宅一軒分ほどの敷地しかない、ミニサイズのお社だが
実はこれこそ、京都御所の鬼門を守護する重要な社殿なのだという。
広大な敷地を持つ京都御苑の中にある京都御所。この北東の角が鬼門と呼ばれる箇所だ。北東、つまり丑寅-うしとらの間は、陰陽道で言うところの、鬼が出入りする、忌むべき方角。その角は、猿が辻とも呼ばれ、鬼門を猿が護っていると言われる。
なぜ猿かと言えば、丑寅の反対方向が申-さるだから、とも、魔が去る、から猿になったとも言われるが、定かではない。が、猿を守り役と決めたからには、鬼門に配しなければならない。
という訳で、この"猿が辻"の塀の上をよく見ると、ちゃんと御幣を持つ猿が鎮座している。そしてそれと同じ猿が『幸神社』にも居るのである。 (42-3ページ)
てな感じで、都を護る猿について詳しく紹介されていたのだが
あいにく暑熱と"若冲酔い"のダブルパンチで、集中力も分析力もダダ落ちしていた。
辛うじて確認できたのは、境内拝殿の瑞垣(柵みたいな木組みの壁面)に掛けられた
御幣(短冊形に切った紙のついた木の棒)を持つ猿の絵馬。
ネタ本には「たくさん掛かっている」とあったが
その数、わずか2~3枚。
サルの絵が確認できたのは、そのうち1枚だけだった。
御幣を担いだ猿の絵馬。社殿は無人なのに、どこで買ったのかな?
社殿の東北隅にも、御幣を担いだ木彫りの猿がいて
東北に睨みを効かせている、とのことだったが
どれだかわからぬまま、東北隅にひっそり祀られていた石?をフレームに収め
〈幸神社詣り〉を終えることにした。
京都の歴史にどっぷり浸るよりも
ブツブツ文句を言い始めていた腹の虫をなだめる方を優先したからだ。
北東隅に鎮座する「御神体」。拝むと"縁に恵まれる"らしい。
こちらの「鬼門話」を聞き流し、退屈し始めていた相方とともに寺町通へ。
するとわずかに南へ進んだ左手に、昔ながらの狭いアーケード街が手招きしていた。
どこか既視感のある風景だな~と思ったら、それもそのはず。
京都アニメーションの作品「たまこまーけっと」のモデルになった商店街。
正式な名称は「枡形通商店街」・・でいいのかな?
根っからのアニメ好きとして、ぜひここは
"うわー、たまこのアーケード街だ!"とか能天気にはしゃぎたいところだが
実際に目にしたとき、最初に脳裏に浮かんだ光景は
――忘れようとしても忘れられない、あの火災事件だった。
入口で立ち止まり、しばし黙祷した。
そんな"頭"の想いをよそに、腹の虫は元気で現金だ。
もう2時過ぎだぞ。何か食わせろ。・・と文句を垂れている。
わかったわかった。
実は、目を付けているうどん屋があったのだ。
昭和を感じさせる"たまこまーけっと"の東出口寄りに
これまた、「ザ・地元の食堂」と呼びたくなるうどん屋さんが、暖簾を出していた。
その名も『増寿形屋(ますがたや)』。
実はこちらも、前出『京都の路地裏』で紹介されていた
「鯖寿司のうまいうどん屋」だったのである。
うどん屋なのに何故鯖寿司かと言えば、ここが鯖街道の終点にあたるからだ。〈中略〉
そんなわけもあって、うどん屋なのに、この店の一番人気は鯖寿司。うどんとセットで食べるのがこの店流。京都のの店らしい、出汁の効いたうどんと二切れの鯖寿司。わざわざ来て食べる価値がある。ひと口では頬張りきれないほどに大きな寿司。割烹の椀物に勝るとも劣らない、出汁の効いたうどん。本当の京都の味とは、こういうものを言う。 (166-7ページ)
巨大なサバの暖簾。その左手が、鯖寿司コーナー。
ここまで手放しでほめているのだ。食わずに済ますわけにはいかない。
「鯖街道終点」の文字と、逞しいサバが踊るのれんを掻き分け
どこから見ても街なかのうどん屋、そのまんまの店内へ。
午後2時を回ろうとする頃合いもあり、先客は二組ほどだったので
好みのテーブルにつき、テレビの音が流れる店内をひと眺め。
名物の鯖寿司は、外の通りから見えるガラス張りのブースで作っている。
さっそく、メニューを開き(壁のお品書きも参考に)
一番人気の「うどんセット」と、「梅うどん」を注文した。
目当ての鯖寿司は二切れついてくる。
鯖寿司が得意でない相方の事情もあり、ふたりでひと切れずつ食べようと決めたのだ。
京都の定番「にしんそば」をはじめ、品揃えは多彩。
奥の盆が「うどんセット」。鯖寿司の存在感、ハンバなし。
待つこと数分。
学生アルバイトらしきすらっとした女性店員が
うどんと鯖寿司の乗ったお盆を、元気よく持って来る。
かぐわしい出汁の匂いが、あたりにたちこめる。
そして、「セット」の盆に鎮座する、ふた切れの鯖寿司。
たしかに大きい。
ロールケーキほどもあるシャリの上に
分厚いサバがみっしり載っていた。
さっそく、うどんの汁をひとすすり。
・・・口の中にいっぱいに、出汁の味が満たされていく。
続いて、目玉の鯖寿司だ。
相方に勧められるまま、肉厚の一切れが載ったほうを、ガブリ。
酢飯の香りと、ナマに近い濃厚なサバの旨味が、一気に味覚を占領する。
――確かに、これは、うまい。
うどん単体だと6~700円台のところ
鯖寿司がついた「セット」は1300円ほどになる。
品書きを眺めたときには・・ちょっと高いかな?なんて思ってしまったが
これはケチケチせずに、"食べなきゃダメなやつ"だった。
昨年の秋に味わった、おばんさいと西洋料理に続き
またもや、(京都ならでの味)に舌と心を奪われてしまったよ。
ほんっとに、ごちそうさま。
ではでは、またね。