いのちは暗闇の中のまたたく光だ! 『機龍警察 暗黒市場㊤㊦』『機龍警察 火宅』月村了衛 周回遅れの文庫Rock

タイトルに使わせてもらったのは

風の谷のナウシカ』(漫画版)のクライマックスで

「汚染や死を排除したものこそ、未来の命のカタチだ」と断ずる創造主?に

"生きるとは、そのすべてを内包するものだ"と反論するヒロイン・ナウシカの叫び。

第一作から文庫版最新作「暗黒市場」まで通読するうち

40年以上?前に印象深く読んだこのひと言が

熱く降り積もった記憶の層を突き抜け、ぷかりと浮かび上がってきた。

 

もちろん、両作品の内容は、まったく違っている。

ご存知のとおり、〈ナウシカ〉は

全世界的な汚染に絶滅の危機に瀕しつつある、仮想世界のファンタジー

かたや本書〈機龍警察シリーズ〉は

人が搭乗する戦闘ロボットが犯罪や戦争の主役となった

現実の延長線上にあるかもしれない、近未来を舞台にした警察小説?だ。

アニメ好きの人には、「パトレイバーっぽい」と言えば伝わるだろう。

 

しかし、ギャグ要素が多かった(特に前半)「パトレイバー」とは異なり

「機龍警察」は、徹頭徹尾シリアスモードで突き進んでいく。

そもそも、創設された警視庁「特捜部」の切り札、3体の〈機龍兵〉を操る

搭乗者3人全員が、まともな警官ではない。

世界中の紛争地を股にかけて暴れ回った、傭兵の中の傭兵。

テロリスト仲間に「殺人鬼」と恐れられた、女性元テロリスト。

腐敗しきったロシア警察に「裏切者」のレッテルを貼られながらも

警察官の誇りを捨てることができない、〈痩せ犬〉。

 

「白か黒か」でいえば、グレーどころか揃いも揃って「真っ黒けのけ」。

法と正義を担うあるはずの警察の、対極に位置する"極悪人"ばかり。

しかも、3者それぞれが、とてつもなく重い荷物〈過去〉を背負ったまま

犯罪者側の機甲兵装(戦闘ロボット的乗り物)と戦うのだ。

殺し合う相手が"かつての同僚"という巡り合わせも、少なくない。

そのうえ、国際無差別テロが招き寄せる〈悲劇の連鎖〉。

人間の強欲が引き起こす〈組織の堕落と腐敗〉など

いたるところに、殺戮と悲劇、無力感と絶望感が山積みになっている。

 

また、「正義サイド」の政府&警察内部も、"一枚板"には程遠い。

各セクションのメンツと縄張り意識が頭をもたげ

肝心要のタイミングで、捜査活動に横やりを突っ込んでくる。

「警察官の恥」と身内に憎まれる特捜部(と竜騎兵)の

"足を引っ張ろう"と、手ぐすね引いて待ち構えているのだ。

 

要するに、上下左右どこを向いても真っ暗闇な《機龍警察ワールド》。

だがしかし、そんな腐敗と絶望と死のまっただなか――だからこそ

警視庁の異端児「特捜部」を背負う者たちと、3人の〈機龍兵搭乗要員〉が放つ

"小さな一瞬のまたたき"に、心を奪われてしまう。

いったい誰が、どこで、どのような光を放って見せるのか。

それこそが本シリーズ最大の見せどころだと、強く感じている。

 

どれだけ科学技術が進歩しようと、社会や文化が成熟しようとも

争い・腐敗・憎悪・絶望・そして死からは、決して逃れることができない。

だからといって目を逸らし、"なかったことにする"のは誤りだ。

我々は、「そういう存在なのだ」という〈現実〉をまるっと受け入れ

避けられない死や哀しみを背負ったうえで

それでも命を賭けて挑み、戦い続けるしかないのだろう。

 

「小説」という架空世界のなか

暗闇に突き落とされながらも、決して諦めない彼ら・彼女らの姿から

ナウシカの、あの叫びが、聞こえてくるのだから。

 

ーー いのちは 暗闇の中の またたく光だ!

 

ではでは、またね。