ラノベの皮をかぶった"ちゃぶ台返し小説" 『86-エイティシックス-』(Ep.4まで)安里アサト 周回遅れの文庫Rock

『チ。』の拷問シーンにほとんど"痛み"を感じなかったのは

並行して読み進めていた本作(特にEp.4)のおかげ?かもしれない。

こちらの「差別」やら「暴力」が凄まじすぎて、麻痺していたのだと思う。

 

命をすりつぶす戦闘シーンの連続もさることながら

声を大にして語らずにはいられないのが

息苦しさを覚えるほど圧倒的な〈差別〉の連鎖。

頻出する軍事用語や戦略法などからも

下敷きになっているのは、第二次大戦中のナチス・ドイツあたりだろう。

 

無人戦闘ロボット軍団〈レギオン〉の大量出撃によって

「サンマグノリア共和国」殲滅に乗り出す「帝国」。

対する「共和国」も、〈ジャガーノート〉と称する"無人機部隊"を続々と繰り出し

連日、《戦死者数ぜロ》の戦いが繰り広げられていた。

・・というのは、真っ赤な嘘。

共和国研究者の開発力が及ばず、"無人機"ジャガーノートのAIは圧倒的に能力不足。

これを補い、スタンドアローンを可能にするため、「人ではないもの」を搭乗させる。

それこそが、「86(エイティシックス)」と名づけられた有色人種だった。

かくして、白銀の髪・瞳・肌を持つ優等民族「白銀種(セレナ)」以外の共和国民は、

家族を人質にされ、最前線で帝国の戦闘機械との"殺し合い"に命を散らしてゆく・・。

 

豚に人権を与えぬことを、非道と謗られた国家はない。

故に、

言葉の違う誰かを、色の違う誰かを、祖先の違う誰かを人の形の豚と定義したならば、

その者達への抑圧も迫害も虐殺も、人倫を損なう非道ではない。(Ep.1  9ページ)

 

物語は、そんな絶体絶命の「死地」に送られながらも

卓越した技と能力を発揮して、数年を生き延び

「パーソナルネーム=号持ち」で呼ばれる歴戦の若者たちと

〈遠隔通信による指揮権〉を任された白銀種の少女との接触で、幕を開ける。

 

「86」を"人ではない"と定義した共和国の方針に疑問を抱く

白銀種の少女ヴラディレーナ少佐は

彼らの命を平然と使い捨てにする上層部の方針に逆らい

精鋭部隊の若者たちと、"人対人の交流"を築こうと前のめりになっていく。

・・てな感じで、一巻目(Ep.1)の前半で展開されてゆくのだが。

 

その先の展開は、たぶんいい意味で、読者の期待を裏切ることだろう。

よくある、"話せばわかる・愛は人類を救う"的な〈お花畑〉にとことん背を向け

地吹雪轟く〈極北〉目指し、無人の荒野を突き進んでゆくのだ。

 

それでも、最初の一冊(Ep.1)は、まだ「ラノベ」の枠内に収まっていた。

最後の最後には、どうにか"それらしき着地"を見せてくれたから。

だがしかし、冒頭で蒔かれた〈差別の種〉は

「86」の行く先々で、大輪の花を咲かせ続けることになる。

 

ーー凄いぞ、このブレーキのぶっ壊れた"差別の連鎖"は。

なにより、まいったなあ・・!

と、たまらず天を仰いでしまったのが、Ep.4(4冊目)で明かされる光景だ。

 

〈レギオン〉に国を奪われながらも「白銀種至上主義」を捨て去らず

自分たちを救ってくれた「86+同盟国」軍に向かって

「86は自分たちの兵器だから返してほしい」と真顔で訴える、元共和国の面々。

そのいっぽうで、マシン集団〈レギオン〉側は

民族や肌の色にはまったく頓着しない『完璧な平等』を貫き

それゆえに背筋が凍りつくような捕虜の"処理"を、やらかしてくれる。

大半の読者は、このあたりで天を仰ぐことだろう。

 

この4月からアニメ版の放送が始まっているが

おそらくEp.1(一冊目)のラストにたどりついたところで、終わるだろう。

とりあえず、ハッピーエンドっぽくなってるし。

だが、本作品の〈本領〉が味わえるのは、その先だ。

巻を重ねるにつれ、ますます"救い"は奪われ、よりリアルになっていく。

 

そして、4冊目。

――これはもう、アニメ化は不可能なんじゃね?

と、ラノベの皮をぶちぶち突き破っちまったところで

最新刊(既刊は9冊)まで辛抱できず、ここに書いてしまった次第。

 

きっとこの後も、あの手この手で、こっちの予想を裏切ってくれるんだろうな・・

なんてワクワクしつつも、ここらでいったんクールダウン。

順番待ちさせている〈次の本〉にチェンジしようか、決めかねている。

※この"迷うひととき"が、また幸せ。活字中毒者に栄光あれ!・・なんちって。

 

ではでは、またね。