ハンマーが振り降ろされる♪ 『チ。-地球の運動について-』(第1~3集)魚豊 周回遅れのマンガRock 

どうして、これが大賞を取らなかったのか、理解に苦しむ。

いきなり読者を試すように、血なまぐさい拷問シーンで始まるから?

多少絵が雑だったり、ときどき文字だらけになったり

構図やらコマ割りが乱暴だったりしたから?

まさか、そんな細いことで優劣つけちゃったりしてないよな!?

とか難癖つけたくなるくらい、強烈なインパクトをくらってしまった。

 

とにかく、こちらの"読み"を外しまくる。

なので、先が読めない。

ページをめくるたび、続きがどうなるのか、ドキドキする。

気がつくと、あっという間に既刊3冊が終わっていた。

さらに、ラスト見開きの「次週予告」で

ひときわ強い飢餓感に襲われてしまうのだ。

——おいおい、このあとって、どうなるんだよ!?

 

さすがに3集目ともなれば

3度目のバッターボックスに入った打者のように

ピッチャー(作者)の投球傾向がいくらか見えてくる。

"たぶん次はこの球種で攻めてくるんじゃないか"

程度の予想はつくようになってきた。

とはいえ、またもやこちらの読みを吹っ飛ばす暴れ球を放ってくるかもしれない。

そんな予感が、たまらなく気持ちいいのだ。

マンガを読んでいて、こんな気分が味わえるなんて、何年ぶりのことだろう。

 

・・あ、いかん。

粗筋ぐらい書かとかないと、何言ってんのかわかんないか。

 

物語の舞台は、15世紀前半のヨーロッパ(らしき国)。

「世界は神が創りたもうた」と唱える

かの宗教(って一神教は大体そうか)が全土を支配。

天文学においても「世界の中心に地球があり、全ての星はその周りを巡っている」

いわゆる『天動説』が"絶対の真実"と、固く信じられている。

これに少しでも疑問を投げれば、即座に「異端審問」に引き立てられ、最悪死刑だ。

ところが、正確にかつ緻密に天体の運動を観測すればするほど

『天動説』では説明しきれない〈矛盾〉がボロボロ出てきてしまう。

そんななか、ひそかに頭をもたげるのが

「地球も太陽の周囲を回っている星のひとつに過ぎない」という『地動説』。

 

かくして、「唯一絶対の神」と「科学的真理」を天秤の両皿に載せ

〈一歩間違えれば異端審問⇒拷問⇒火刑まっしぐら〉な探求者たちの

命と信念を賭けた闘いが繰り広げられてゆく。

 

深く突き刺さった言葉(シーン)をいくつか引用しよう、と思ったが

初めて読む方々の興をわずかでも削いでしまうのが嫌なので、今回は無しにする。

立ち読みで、第1集だけでいいから、手に取り目を通して欲しい。

大丈夫。すぐ読み終わる。

で、きっと続きが読みたくなる。

(天動説と地動説に関して最低限の知識と興味がある方なら)

 

最後に、第4集への期待を込めて

第3集末尾に載った「次集への予告文」を記すことを、許してほしい。

 

諸君はこの時代に 強ひられ率ゐられて

奴隷のやうに 忍従することを欲するか

むしろ諸君よ 更にあらたな 正しい時代をつくれ

                     (宮沢賢治『生徒諸君に寄せる』) 

 

あ、そうそう。

タイトルに挙げたのは

「ザ・ブルーハーツ」の曲「ハンマー」の歌い出しの部分。

どこでどういう回路がつながったのか

本作を読んでいるあいだ、ずーっとこの曲が頭の中に流れていた。

同時に、『善意のハンマー』というイメージが立ち上がって、消えない。

きっといまこの瞬間も

自らの「善意」を信じて疑わない人々が

"あなたのためだ"と言いながら

世界中で無数の「ハンマー」を振り降ろしている。

 

ではでは、またね。