《真珠の耳飾りの少女》の正体は"ヴァイオレットちゃん"! 『フェルメール全点踏破の旅』朽木ゆり子 周回遅れの新書Rock

いまや日本で(世界でも?)トップクラスの人気を誇る

17世紀オランダの画家ヨハネス・フェルメールが遺した

わずか三十数点の作品。

それらに出逢うため、一人の女性ジャーナリストが

欧米各都市の美術館を訪ねて回った記録である。

 

作品それぞれの出自と、美術館に収蔵されるまでの経緯。

そして、個々の作品にいかなる技法・暗喩・メッセージが込められているか

といった「詳細」は本文に任せることにして

今回の《発見》について語りたい。

 

他でもない、最高傑作ではないかもしれないが

フェルメール作品の"アイコン"であることは間違いない

真珠の耳飾りの少女》に関する事実。

そう。「この絵のモデルは誰か?」という疑問への答えである。

 

世界的なフェルメール・ブームの原因になった小説(『真珠の耳飾りの少女』)と

それを下敷きにした映画のヒットによって

"フェルメール家で働く若い女中がモデルだった"とのフィクションが

歴史的事実であるかのように誤解されてしまった。

しかし、美術史家に言わせれば「そんなバカげた話はない」のだという。

 

だとしたら、モデルは誰だったのか?

ここで、「トローニー」という、耳慣れない言葉が登場する。

「トローニー」とは、フランス語のトローンtrogne(顔という意味の俗語)から来た

言葉で、不特定の人物の半身あるいは頭部像のこと。

もともと、宗教的、神話的、寓話的なシーンを描く歴史画に登場する人物に使われ、

特定の「誰か」を写し取ったのではなく、いわば〈アレンジされた人物像〉だ。

17世紀のオランダで、市民の日常生活を描いた風俗画が盛んに描かれると、

多くの画家が、これら〈アレンジされた人物〉を作品に使い始めた。

中でも"肖像画の形をとった人物の絵"が、風俗画の一つのジャンルに発展。

人々は、それを「トローニー」と呼ぶようになった。

 

そして、17世紀オランダで活躍した画家フェルメールもまた

何枚もの「トローニー」を描いたことが確認されており

かの『真珠の耳飾りの少女』もまた、「トローニー」の一枚。

要するに、こういうことなのだ。

この絵がトローニーであったことはもうわかってもらえた思う。では、この絵にモデルはいたのか? おらそくいただろう。身近な人間を使った可能性はあるので、娘や女中だったかもしれないが、私たちにはそれを知る手段はない。しかし、〈中略〉、フェルメールはおそらくその人物をモデルそっくりには描かなかったろう。〈129ページ)

 

実在したらしきモデルは、あくまでベースにすぎない。

これを足掛かりに、画家は己の〈理想〉を力の限り注ぎ込み

ついに「究極の女性像」を創り上げたのだ。

すなわち、2次元だけに存在を許された美少女。

そのことを心に留めつつ、改めて《真珠の耳飾りの少女》を鑑賞してみよう。

 

ナウシカ

ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン

ヴラディレーナ・ミリーゼ etc.etc・・・

(戦う女性ばっかし。偏ってるな~)

200年後に極東の国で栄えたマンガ&アニメのヒロイン像が

見事なまでに重なり合ってくる。

 

そう。フェルメールが描いた《少女》こそ

あまたの漫画家やラノベ絵師が魂を込めて産み出した

《理想のヒロイン像》の、原点だったのである。

 

ではでは、またね。