いまは東京五輪が"スケープゴート" 『R18』有川浩(『Story Seller annex』新潮社ストーリーセラー編集部編) 周回遅れの文庫Rock

 「小説新潮」2011年5月号の特集を文庫化したアンソロジー『Story Seller annex』そのなかに、心揺さぶられる一編があった。

  有川浩『R-18 二次元規制についてとある出版関係者たちの雑談』である。

本文40ページに満たない短編だが、そのインパクトはハンバない。

とある作家と編集者が、打ち合わせに入る前に喫茶店で交わした雑談を

そのまま文字に書き起こした、ドキュメンタリー形式の小説・・・

というより、ふたりの会話を小説っぽくアレンジしたシロモノだ。

 

で、その内容は、「R-18」に代表される「表現規制」に対する反論。

「二次元エロは青少年に悪影響(犯罪への傾倒とか)を及ぼす!」

といった良識的?意見を受けて定められた法的な年齢制限が

いかにマト外れで根拠のない"濡れ衣"に過ぎないのか。

きっちり具体例を挙げ、いちいち納得できる論理展開で謎解きしてみせる。

 

たとえば、「二次元エロに萌える人は、三次元(現実の女性)にも欲情を抱く」

みたいな〈危険〉を訴える規制推進派を、次のように論破する。

 「ヒステリックに二次元エロを叩く人ってさ、根本的なところを理解してないと思うんだけど」

「根本的なところって?」

思わず釣り込まれた編集者に、作家は当然至極のように答えを明かした。

「二次元エロ情報と三次元エロ情報はコンバートできないってこと」〈中略〉

※ここで作家、紙袋の中から成年コミックを引っ張り出して見せる。

「頭蓋のほぼ半分を占める巨大な眼球が備わった顔面に、常軌を逸してるとしか思われないライムグリーンの立体的長髪。更には胸板からラグビーボールわりも巨大な乳房がにょっきり生えて、穴という穴から訳の分からない知る垂れ流してるんだぞ。これ、そのまま生身の人間に置き換えてみ。どう考えても新手の妖怪だろ」〈中略〉

「実際、現代日本で生身の女がここまでだらだら髪長かったら引くだろ? しかも髪色がパステルカラーとかってあり得なくない? この作品のファンだとしても、生身の女がヒロインのビジュアルを再現して追ってきたら光の速さで逃げるような?」
「逃げますねえ、一時的なコスプレなら楽しいですが」〈中略〉

 

「二次元エロは二次元だから楽しめるんだよ。二次元の悪影響って心配は甚だアサッテ。大体、二次元のエロ表現をリアルに再現しようとしたらエロじゃなくてグロになるからな。嫌がる女を無理矢理ってシチュエーションはざらにあるけど、あれリアルでやったら間違いなく障害もしくは殺人だからな」

実際、世の中の陰惨な性暴力事件は被害者の殺人にまで行き着くことが珍しくない。

「相手が紙の上の都合のいい記号だから都合のいい反応見せてくれるんであって、同じこと生身の女相手にやっても泣き喚かれて抵抗されるのがオチだろ。それを腕力でねじ伏せたり暴力振るったりしてコトに及べるって奴は、もともと嗜虐心が発達してるんであって、それが漫画で誘発されるって主張は根拠に乏しい」

「乏しいと言えるその根拠は?」

「実写でいくらでもSM凌辱調教その他諸々が容易に手に入る世の中で、実写を避けてわさわざ二次元を選ぶんだぜ。実者は恐いので二次元にしときますってことじゃないか、つまり、そういう男が生身の女相手に漫画と同じ凶行に及べると思う?」〈中略〉

「っていうか、二次元エロで性犯罪が助長されるっていうなら、日本の性犯罪発生率はもっと高くないとおかしいですよね」

実際はといえば、多種多様なニーズに応じて成年コミックやアニメ、ゲームが溢れているにも拘わらず、日本の性犯罪発生率は先進諸外国に比べても異常なまでに低い。                 

                             (153~161P)

書き写すうちに熱くなり、いきなり長文引用になってしまった。

続いて二人の会話は「性犯罪に及んだロリコンが二次元エロ作品を所持していた事例」

(代表格が「宮崎事件」)へと移る。

これは事実として既に知っていた。『加害者が大量にため込んだライブラリーの中から

警察側が意図的に「二次元エロ作品」を集め、コレクターっぽく演出した』ことだ。

「後から調べてみると、別に幼児愛好の癖があったわけじゃなくて、成人女性に相手にされないから代替品として無力な子供を狙ったって話でさ。自分の無力を自分より更に弱い者で晴らすってのは、むしろ海外で起こる幼児や老人に対する性的虐待に近い構図だよね。だからこれも二次元エロ作品が性犯罪を助長させるって論拠にはならない」

「ははぁ‥‥てっきりロリコンが起こした事件だと思ってました」

「報道を鵜吞みにするのは恐いよな」〈中略〉

「でも、二次元愛好家の実態がそんなんだとすると、規制推進派の言い分って成り立たなくなりますね」

「率直に言うと、スケープゴート作って安心したいだけに見えるよ」

スケープゴートって‥‥?」

首を傾げた編集者に作家は答えた。

「要するに、子どもに性的虐待を働くような人間は、漫画やアニメにうつつを抜かしてる気持ち悪いオタクに違いない、そうに決まってる、そうであってくれってこと」

「それはまた平たく言いましたね」

「でも、実は自動性虐待の加害者って、父親とか兄弟とかの身内であることが圧倒的に多いって知ってた?」〈中略〉

「家族や近しい人の中に加害者がいるなんて残酷な現実よりも、どこぞのキモい二次元ロリオタが加害者つてファンタジーのほうが、受け止める俺たちにとって楽だろ?」

図星を指された。

表現規制っていうのは手軽なスケープゴート探しなんだよ。猟奇的な犯罪は残酷表現のせいだ、子どもが荒れるのは暴力表現のせいだ、性犯罪はエロ表現のせいだ。だから、表現規制すれば大丈夫。でもそれって単なる思考停止なんだよな。根本解決になってないし誰も救わない」                 (167~170P)

 

どうして、書き写すだけでこんなにもムカムカしてくるのか
ここまで進めてきて、やっと気づいた。

ラスト&ラス前の発言ふたつ。

ちょっと単語を切り張りして、書き直してみようか。

 

「家族や近しい人の中に感染者がいるなんて残酷な現実よりも、どこぞのオリンピック推進者が加害者つてファンタジーのほうが、受け止める俺たちにとって楽だろ?」

図星を指された。

東京オリンピック反対っていうのは手軽なスケープゴート探しなんだよ。感染爆発が起きるとしたらオリンピックを強硬開催したせいだ。だから、オリンピックさえ中止にすれば大丈夫。でもそれって単なる思考停止なんだよな。根本解決になってないし誰も救わない」

 

勝手に書き換えられてしまった有川先生には、平身低頭して謝罪する。

でも、要するにそういうこと。

これが、日本人の考え方。

誰にも分かりやすい、自分とは直接関係がない(責任が及ばない)「敵」をこしらえ、

その「敵」を全力で非難・攻撃する。

自分たちの内で知らんぷりしてる〈本当の敵〉からは、目を逸らしたまま。

全世界に対して開催を約束したオリンピックをドタキャンし

国際的な信用をどん底まで落として

たかだか1~2万の選手&関係者の来日を阻止して・・

その程度で、いまの感染状況が有為的に抑えられるわけないじゃん。

ワクチン優先接種の問題にしても、たかたが数千人分の話だぜ。

なんでそこまでヒステリックに騒いじゃうのかな。

もうちょっと、冷静になってさ。

危機ばかり煽る(その方が注目されるからね)ネットやマスコミに踊らされず

客観的な事実とデータを積み重ね、自分の脳みそを使って考えようよ。             

 

ではでは、またね。