本書を手に取ったのは、午前3時過ぎ。
直前に読了した、5巻組み時代小説による興奮を鎮めるべく
"新書なら、そのうち眠くなるだろう・・"と、軽い気持ちで読み始めのが運のツキ。
あっという間に、「安眠」どころではなくなった。
一見地味なタイトルとは裏腹に、のっけから
「えっ、こんなこと書いちゃって大丈夫!?」な問題発言(記述)のオンパレード。
内容もさることながら、これだけの暴言?を並べながら
裁判沙汰になっていないということが、いちばんの驚きだった。
でも、実際のところ、誰(どの組織)からも訴えられていない・・ということは
すべてまぎれもない事実と考えていいのだと気づき
もいちどぶったまげる(古いね)ことに。
もちろん、この程度は社会常識の範囲内。
単に読者(私)が無知だっただけ、という可能性はある。
なにせ、医学界の内実にまつわる知識たるや
マンガ『(新」ブラックジャックによろしく』どまり。
数年前に世間を賑わせた人気医療ドラマ『ドクター✕』すら
スルーしていた〈旧バージョン人間〉である。
そんなわけで、医学界の知識と「白い巨塔」レベル。
2004年に始まった「新医師臨床研修制度」による〈医療危機〉など知らない。
・・といった、《同好の士》であれば
ぜひとも、騙されたつもりで、この新書を手に取っていただきたい。
あなた自身の「命」と「健康」が、深く深く、関わっている問題なのだから。
ではいったい、本書のどこに驚き、ショックを受けたのか。
いくつか、ピックアップしてみたい。
06年4月、厚労省の定めた「研修プログラム」を終えて入局した新人は、以前と全く異質な若者であった。「17時以降はフリー」「単独当直なし」「厳しい叱責もなし」「体調不良時は休んでも可」といった自由な2年間を過ごした医師が、いまさら素直に医局の駒になるはずもなかった。また「研修プログラム」終了後も封建的な医局制度を嫌って大学病院に戻らず、行方が追跡できない若手医師も相当数にのぼった。女医率は上昇し、「妊娠・出産を理由に医局派遣を拒否」することは「当然の権利」とされ、それに苦言を呈した指導医は処分されるようになった。 (29ページ〕
そもそも、「研修医の労働環境が余りに劣悪だ」という批判を受けて大きく見直された〈研修医制度〉だったが、あまりに研修医の権利を重視した結果、今度は真逆の現象が起きてしまった。研修医が、「下っ端」から「お客様」に転じてしまったのだ。
こうして、必然的に始まったのが・・
仕事の出来る中堅・若手医師が、無能な新人の"尻ぬぐい"に奔走する、という事態。
16:30にはパソコンを閉じ、16:50には着替えを済ませ、17:05には院内から姿を消す研修医は珍しくなくなった。ある病院で心電図の不得意な研修医が目立ったので、指導医が無給で月曜日18:00~20:00の勉強会を企画し、自腹で教材を作成したところ、研修医は歓迎するどころか「そういうのは、勤務時間中にやるべきだ」とのクレームが相次ぎ、勉強会は中止された。別の病院では、指導医が「今日の午後は、私の外来を手伝って」と研修医に指示したところ、「今日は、初対面の人と話をする気分じゃないんですぅ~」という返事だったので、指導医は一人で外来をこなした」。「メンタル不調を訴える研修医を、ムリヤリ働かせた指導医」として処分されるリスクを恐れたからである。 (28ページ)
その結果、デキル医師たちは、やってらんねーよ!!
と、大病院(昔ながらの医局徒弟制度)から続々とドロップアウト。
インターネットで選び放題の「就職(バイト)情報」を武器に
『ドクターX』に象徴される、《医師のフリーランス化》が一気に進んだのだ。
いっぼう、有能な人材が抜けた大学病院などの大病院で、何が起きるかというと・・
若手から中堅医師が減る一方で、「定年間際」「腕や協調性に問題がある者」「持病あり(特にメンタルヘルス系」」「育児時短中」などのカバーの必要な「(自称を含む)弱者」は組織にしがみつくので、構成人員が減るだけでなく、多くの大学病院は非筋肉質な組織へと変貌していった。病院長などの管理職に現場の苦労を訴えても、前述のよに、多くは「自分が定年退職するまでの数年間を無難に過ごす」ことを至上命題としているので、「支え合い」「チームワーク」などの説教話で済まされ、徒労感を増やされるだけだった。
そもそも「支え合い」と言っても、「有能医師が低能意思をカバー」できても逆は不可能である。「帝王切開も子宮がん手術もバッチリな40歳男性産婦人科医」が「産育休時短を繰り返して、正常分娩と外来がやっとの40歳ママ女医」の仕事を代行することはあっても、逆はありえない。また、「40歳ママ女医」が子供の急病を理由に休むことは当然の権利とされる風潮だが、彼女の分まで外来をこなす男性医師が「予約患者を2時間も待たすなんて!」と非難されることもよくある話である。40代男性医師が自分の急病を理由に病院を休むと、(死人が出かねないので)かのママ女医に「代わりに手術しろけと命令する者はおらず、手術はキャンセルとなる。そして翌日に出勤した男性医師が「無責任」と非難されることもよくある話である。そして、両者の就職した年度が同じ場合、給料はさほど変わらない。 (36ページ)
つい興奮して、長々と引用してしまった。
だが、そうしたくなる気持ちも分かってもらえるはずだ。
すべて、第1章『白い巨塔』から『ドクターX』へ 内という駆け出し部分だが
これだけでも、
①「大学病院だから大丈夫」という幻想は捨てた方がいい
②サラリーマン医師よりフリーランスの方が腕一本で稼いでいる
(少なくとも無能では食べていけない)から、信頼できそうだな。
・・といった推測が成り立つ。
※読み進めるにつれ、この直感を裏打ちする事実が山のように出て来る。
さらに、こんな余計な考えまで、湧き上がってしまうのだ。
〇大学病院などの大病院が、いまいち新型コロナ患者の受け入れに積極的でないのは
こうした〈残念な医師〉たちの根強い反対のせいではないのか。
★コロナ重症者受け入れ少ない国立大学病院 ゼロが22病院も(yahoo news2/3)
〇「森発言」で一気に燃え広がった「女性蔑視問題」だが、
現実問題として、本書の「ママ女医」のような残念な存在を知ってしまうと
〈女性の権利〉を利用し"逆差別的"なオイシイ思いをしているちゃっかり者もまた
決して少なくないのではないだろうか。
いくら「数字上の男女平等」を実現したところで
我々患者にとっては〈頼りにならない医師〉が増えるだけのことになりかねない。
少なくとも、〈権利〉というパラソルの下で優雅に暮らす「ママ医師」の陰で
〈果てしなき尻ぬぐい〉に奔走している、"真の弱者"が存在していることは
絶対に忘れてはならない。
あれこれ思い浮かぶことを書いていたら
.第一章だけで、いっぱいいっぱいになってしまった。
あとは、ぜひとも本書に目を通すことで、〔驚き〕を共有していただきたい。
もちろん、サブタイトルに挙げた
"名医"と"ダメ医師"の見分け方についても、しっかり載っている。
たとえばこんな感じ。
腕の良くない「ハズレ教授」たち
「医大教授とは優れた医者がなるもので、その辺の開業医より腕は立つ」という認識は、昔も今も大きな間違いである。大学病院において意思を選べるならば「35~50歳ぐらい、講師~准教授クラス」を選んでおけばバスレが少ない。そして、教授の肩書を持つ医者の腕は、実際のところ当たりハズレが大きい。天野先生のように、腕一本で教授選考に勝ち残るタイプは外科系(特に心臓外科)では増加中だが、大学病院全体としては残念ながら、まだまだ少数派である。「ネズミの実験で論文をたくさん書いて教授」というタイプは内科系に多く、今もそれなりの数が存在する。 (91ページ)
驚きを通り越して、快感すら体験できた本書。
次回、医者の世話になるときには、必ず手元に置いておきたい一冊だ。
ではでは、またね。