2017年1月5(木) ローマ⇒ナポリ
キオスクおやじの忠告に従い
ダウンジャケットの下に貴重品バッグを抱え直し
ちょうど停車中だった始発のバス(R2)に乗車する。
直後に満員のバスは発車し、大通りを南西に向かって走り出した。
吊革につかまって車窓風景に目をこらし、〈降りどころ〉を探していると
15分ほどで進行方向左手に、ナポリ湾の水面が広がり
どこかスペインっぽい円柱の双塔をもつ城が、姿を現わした。
すかさず「ここだ!」と、下車ボタンに手を伸ばすまでもなくブザーが響く。
.心配しなくても、乗客の半分以上が下車したのだった。
全身から〈スペイン光線〉を放つヌオーヴォ城
てなわけで、ルネッサンス様式の傑作と称えられるヌオーヴォ城の手前から
本格的なナポリ半日観光がスタート。
ムニーチピオ広場~ヌオーヴォ城~サン・カルロ劇場~王宮〈プレビシート広場)と
いずれも外からだけだが、順番に見物していく。
率直な印象は――イタリアというより、スペインじゃん!
というものだった。
さすがはローマと以北とは歴史が異なり
ルネサンス以降、およそ300年?間もスペイン領だっただけある。
歴史的な建造物や広場の雰囲気が、どれもこれも
マドリードやセビーリャなどで見た宮殿や広場と、ほとんど一緒だったのだ。
そこそこ歴史には興味があり
ヨーロッパルネサンス&近代史の本も読んできたつもりだったが
どこまでいっても〈頭の中の知識〉どまり。
実際"現場"に立ってジカに体験しないと
本当の意味で〈分かった〉ことにならないのかもしれない。
ともあれ.「イタリアとスペインのハーフハーフな雰囲気」が面白く
ろくにガイドブックをチェックしないまま、プレビシート広場でしばらくぼんやり。
そのまま、一番の繁華街といわれるトレド通りに向かったので
目と鼻の先にあったナポリで指折りの名所
「ウンベルト1世のガッレリア」と「卵城」を、あっさりスルーしてしまった。
夕食後、ホテルに戻ってから、「失敗した!!」と気づいたが。後の祭り。
まったくもう、なにやってんだか・・・
そんな痛恨のミスには気付かぬまま目指したのは
トレド通りにあるケーブルカー(チェントラーノ線)の乗り場
海の近くまで高台が迫っているナポリには
日本でも「フニクラ」で知られるケーブルカーの路線が何本も走っている。
1日乗車券があれば乗り放題なので、ぜひ体験したいと思っていたのだ。
ところが――乗り場発見!
と思った次の瞬間、入口に立ちはだかる巨大な鉄柵に行く手を阻まれてしまう。
営業時間は確認済みだったので、ストか、事故か、はたまた臨時休業か。
理由は分からないが、とにかく運行休止なのは一目瞭然だった。
やってないものは、仕方ない。
ひとまずケーブルカーは諦めることにして
観光客でごったがえすトレド通りをじゃらんじゃらんすることに。
とはいえ、大好物の「B級店」はどこにも見当たらず
目の届く限り、ブランド物を扱う高級店と、いかにもな土産屋ばかり。
結局ほとんど店には入らず、路上のあちこちでやっていた生演奏を楽しんでいた。
――それにしても、日本人の姿を一度も目にしてない気がする。
イタリア大好きなはずなのに・・ナポリってあんまり人気ないのかな。
「歴史地区」ぐらいしか世界遺産がないから、観光ルートから外れているのかも。
そうこうしているうちにも、時刻は4時過ぎ。
路上ライブ鑑賞で時間を潰してしまうのは、あまりにもったいないと
今度は地下鉄に乗って、丘の上を目指すことに。
トレド通りの途中に口を開けていたトレド駅への入口を降り
当初ケーブルカーで登る予定だったエリアへと向かった。
のだが、この地下鉄(Metropoliyana)のルートが、妙にぐるぐるくねくね。
おそらく標高を稼ぐため、わざと遠回りさせているのだとは思うが
地下鉄は便利な乗り物(代わりに景観は期待せず)というイメージが強かっただけに
走っても走っても目的地に着かない気分だった。
結局、一度の乗り換えを挟んで、30分以上狭い車両にぎゅうぎゅう詰め状態で
ようやっとPizza Vantitelli駅に到着。
地上に出ると、すでに街にはネオンが。
せっかくナポリに来たのだから
世界三大夜景のひとつとも称される「ナポリの夜景」は拝みたい。
そんな希望を胸に、例によってクリスマスイルミネーションが灯る通りをさ迷うが
(カトリック国なので1月上旬頃までクリスマスを祝う)
どこにも展望台らしきものは(案内板を含めて)見当たらない。
そのあいだにも、本日のディナーに予約した19時が刻々と近づいてくる。
あっという間に日は落ちて・・
うーん・・背に腹は代えられないか。
「夜景」は諦め、ナポリ駅まで戻ろうと地下鉄の入口を目指して歩くと
なんと、そのすぐ先に「ケーブルカー乗り場」の明かりを発見!
しかも今度は、ちゃんと運行している!
きっと修理か何かのために、臨時休業してたにちがいない!
勝手に決めつけ、ホームに止まっていた下りケーブルカーに飛び乗る。
ガタゴト急斜面を降り射ていくと、途中でひと駅だけ停車し、すぐ終点に到着した。
よーし、あとはバスか地下鉄でナポリ駅を目指すだけ!
諦めていた〈ケーブルカー乗車〉を果たし、上機嫌で改札口へ向かう足が。
そこで、ハタと停まった。
・・.あれ? なんだか、昼間見た駅とは違うような。
目の前に広がるのは、街灯の明かりもろくにない静かな住宅街。
観光客で賑わってトレド通りの繁華街とは、似ても似つかぬ光景だったのだ。
恥ずかしながら、このとき初めて、駅名と路線名を確認すると・・
駅名Stazione、でもって路線名は「キアイア線」。
そう。ろくに確かめもせず、別の路線に乗っていたのだ。
おまけに、慌てて地図を調べてみると
ここから地下鉄でナポリ駅を目指すのも、意外と面倒臭いみたいだった。
(後で冷静に確認したらそうでもなかったが)
しからば、戻るべし!
いま降りたばかりのケーブルカーに乗り込み、もいちど丘の上へ。
そこから地下鉄Pizza Vanvitelli駅⇒Pizza Garibaldi駅(ナポリ中央駅へ直結)とたどり
なんとか予約時間前に、今夜の店「ミミ・アラ・フェッロヴィア」に到着できた。
駅の近くということもあり、周囲はどこか殺伐とした空気がただよっていた。
(実際、街角には巨大なゴミの山がドンとそびえている)
しかし、一歩店に入ると、ちょっと裕福なナポリの家を訪ねているような
リラックスできるアットホームな雰囲気に満ちていた。
せっかくナポリに来たのだからと、
ポルピ・イン・カッスオーラ(小ダコのトマトソース煮)
アサリのパスタなど、魚介類を中心にオーダーする。
で、率直な感想は・・味はいいんだけど、ちょっと油がキツイのかな。
妙に重たく、お腹にもたれそうな予感がしたのだった。なんか、惜しい気分。
それでも、店の人達はみな人懐っこく、とっても温かい。
明らかにローマ以北のレストランよりも、人と人の距離が近い気がした。
おまけに「日本から来た」と聞くと
店のご主人、満面の笑みを浮かべ、一枚の写真パネルを持って来た。
・・そこには、ご主人と記念撮影に応じる、元首相・小泉純一郎氏の笑顔が!
こんな庶民的な店に、たった一人で訪れていたのであった。
さすが、〈変人〉と呼ばれた男だけのことはある。
ではでは、またね。