いつ来るのか分からない夜明けを、ただひたすら待ちつづける・・
そんな、心身共に息詰まるような日々を耐えている
すべての人(自分も含む)にオススメしたい、物語のひとつ。
ときは江戸時代中~後期。(たぶん一八世紀末あたり)
神田花房町で小さな居酒屋「ぜんや」を営む、若き未亡人お妙。
彼女に心を寄せる、鶯指南で生計を立てる旗本の次男坊・林只次郎。
両者を中心に展開する、〈グルメ&サスペンス時代小説)といったところだ。
すでに九冊目まで出版されているが
全体を貫く「背骨」は、次第に近づいていくふたりの〈恋愛話〉と
お妙の亡き夫(+父親)の死をめぐる〈謎とき〉だろう。
しかし、ひとまずそれは置いといて・・
と言いたくるなる本書の魅力こそ
主人公・お妙が、季節の旬の食材を自在に使って生み出す、料理の数々である。
必ずしも、こまごまとしたレシピや手順が描かれているわけではない。
なのに、その食材を食べた経験がある人であれば
おそらく少なからぬ方々が、彼女の提供する一皿一皿を舌の上に再現し
思わずつばを飲み込むことになるはずだ。
もちろん、夫&父親を亡き者にした理由と黒幕を追求する過程で
しばしば血なまぐさい事態が勃発、不安と緊張が行間に漂うときもある。
たとえば本書(第九集)では、お妙の父親が殺された背景に
新しい価値観の台頭を許さない既得権益者たちの存在が匂わされた。
このあたりは、"いまどきの日本とまるっきり一緒じゃん"。
などと、ため息をつきつき、ページをめくっていたものだった。
とはいえ、物語全体の〈通奏低音〉となって響くのは
喧嘩でも殺人でもお家騒動でもなく
素朴ながらも工夫を凝らされた手料理の"ほっとする美味しさ"。
そして、料理と鶯(!)を通じて巡り遭った人々と織りなす"心の交流"だ。
だからこそ、誰もが底知れぬ不安に追い立てられ
日を追うごとにストレスばかりが溜まり続ける、いまこのとき。
すうっと読者のなかに滑り込み
ほっこり温めてくれる「居酒屋ぜんや」の物語を味わい
心の手足をうーんと伸ばしてみることを、けっこうマジに提案するのであーる。
ちなみに本シリーズは、相方の母親(八〇代)も大好きな作品のひとつ。
読了した後は彼女の元に送付し
ふたりぶん楽しんでもらうことにしている。
(だからここまでの八冊の内容は、ぼんやりとしか覚えていない。
でも、そのゆるーい感じが、ちょうどいい塩梅だったりして)
ではでは、またね。