”ぶぶ漬け伝説”の真相 『京都はんなり暮らし』澤田瞳子 周回遅れの文庫Rock

先月の京都旅行から戻ったあとで

わが家の「積読山脈」の奥底に埋もれていた本書を発掘。

毎度毎度の間の悪さに苦笑しつつも、手に取った。

 

幸い、一読したところ

「ど、どうして、これを見逃して(食べ逃して)しまったのか!」

みたいな〈痛恨のいちげき〉を喰らうことはなく

「へー、あの場所には、そんな歴史が埋もれていたのか~」

といった、深掘りor後付け情報を伝授していただき

今回の京都の旅を、二度楽しむことができた。

 

それもそのはず。

いまや売れっ子歴史作家のひとりである澤田瞳子澤田ふじ子の娘)は

生まれも育ちも京都市内。

おかげで、観光・食事・土産物という

三種の神器」に偏った通常のガイド本とは一線を画し

四季折々の移り変わりのなかで

〈暮らしの場・京都の魅力〉を、ひとつひとつ紐解いてくれる。

 

偶然にも、先月の旅で強く印象に残っていた

「五条楽園」「北野天満宮」「出町以北の賀茂川・高野川沿いの河原」などが

著者の"お気に入りスポット"にピックアップされていたものだから

"そうそう、あっしも知ってますよ!"

とか、いっちょまえに相槌を打ってみたりして。

これだから、初心者はつけあがると手に負えない、なんて笑われるんだよな。

 

しかし、本書の中でもっとも〈心の膝を叩いた〉ところは

素敵なスポットでも隠れた名店でもなく

冒頭の『冬」の章で採り上げられた、京都の人について語る一節だった。

表題は『京の茶漬け、京のコーヒー』。

 

なにか用事があったよそ様のお宅にうかがった。話も一通りすみ、ではお暇いたしますと言ったところ、「ぶぶづけ(茶漬け」でもいかがどすか?」とのお言葉。

時刻はちょうど時分どき。ではせっかくなので・・といただいて帰ったところ、あとから「あのお人は礼儀知らずやなあ」と陰口を言われた――というこの話、その気がないのに誘っておいて、あとから悪口を言う、すなわち京都人はいじわるだとの説明によく使われる。〔中略」

――しかし、である。

この状況をよく考えてみて欲しい。いくら用事があったとはいえ、その人物がお宅にうかがっているのは時分どきなのだ。先方ではそろそろお昼の支度にかからねばならず、少し忙しくなる時間帯。そんな時間にのんびり腰を落ち着けようというのは心得違いではなかろうか。                          (34ページ)

 

まったくもって、そのとおり。

失礼なのは接待する側ではなく、自分が迷惑をかけていることに気付かない、

いうならば、周囲に気配りの出来ない、訪問者のほうなのだ。

 

「じゃ、昼ご飯にしますんでこれで」と言われたなら、皆間違いなくムッとするに違いない。お互い相手を傷つけるようなことを言わずこちらも傷つかず、円滑に人間関係を続けるための知恵が、この茶漬けに集約されているといってもいいだろう。

                                (38ページ)

節かに、相手の言葉を額面通りに鵜呑みにせず

状況を客観的に判断して、適切な行動を選ぶことは、容易ではない。

だが、なんでもかんでも単刀直入。

〇か✖か、イエスかノーか、敵か味方か・・と上っつらだけで即断即決。

相手の立場や状況に想いを巡らすことを、「時間のムダ」とばかり切り捨てていては

いつまでたっても、人と人の〈心の距離〉は近づかないのではないか。

余計なお世話と知りつつも、そんなふうに考えてしまうのだ。

 

――いや、これは、オリコウサンの綺麗事だった。

自分も「空気を読みつつ成熟したコミュニケーション」を維持するのがメンドイから

そういった気配りだらけのやりとりが必須でない仕事に進んだわけだし。

だいいち、とても愛想よくて、痒い所にまで気が付き、なんでも相談に乗ってくれる。

そんな世渡り上手な人の言葉に乗せられて、どんだけ痛い目に遭ったことか。

上に挙げた〈相手の気持ちを配慮し合う”ぶぶ漬け”的関係〉なるものは

互いに何代にも渡って同じ場所に暮らすような、確固とした「場」があって

はじめて成立するものなんじゃないかな。

口先と立ち回りの速さで生きている、逃げ足キャラだっているわけだし。

何十年と同じ場所に住んでいても、いっこうに〈根付いた〉実感が得られない

永遠の浮き草野郎には、しょせん”ないものねだり”だろう。

いずれにせよ、人それぞれ向き不向きがあるんだし

無理に無理を重ねて病院行き、なんてことになったら、元も子もない。

”だったらいいなぁ”で、いいんじゃないかな。

 

 おおっと、また、本の内容とはアサッテの方向に暴走してしまった。

 

いずれにせよ、こうした〈小難しい話?〉は、本書の一部だけ。

大部分は、生粋の京都人だからこそ発見できた、"お得情報"のオンパレード。

宮内庁御用達の「松原牛乳」

文之助茶屋の「かき氷」

辻利一本店の「抹茶アイス」

たかしんの「京つけもの

五・八・十一月の「古本市」

京都御苑散策と「亥の子餅」

楽々大文字登山に、近代レトロ建築巡り・・などなど。

これだけで、次回の京都旅行は〈お腹いっぱい〉になりそう。

京都という街に興味があるかたは、ぜひご一読を。

 

ではでは、またね。

 

※明日(あさって)から、昨年11月末~12月初旬にかけて実施した

 トルコ(カッパドキアイスタンブール)の旅日記がスタート。