近未来SFの顔をした圧倒的ホラー小説 『バビロンⅠ・Ⅱ・Ⅲ』野崎まど 周回遅れの文庫Rock

年間2~300冊の本(主に小説)を読んでいることもあり

読書中は「たぶんこの後、こんなふうになっていくんだろうな・・」

と先のストーリーを予想しながらページを繰っている。

だが、本書は、そんな〈自称読書家〉の知ったかぶりを見事なまでに裏切り

常に予想の斜め上に突き刺さるような、驚愕の展開を繰り広げるのだ。

 

物語は、製薬会社をめぐる不正事件を追う特捜検事の視点で始まる。

そのうち、奇妙な手がかりや死体が次々と発見され

背後に大型選挙にまつわる陰謀の存在があぶりだされていく。

そう、舞台こそ近未来の日本だが

ストーリー自体はオーソドックスな「〈陰謀もの〉に属するものだった。

 

ところが、第一巻が残り少なくなるころから

話は次から次へと予想外の方向へと、爆発的に膨らみだす。

疑惑の中核に浮上する若き政治家と一人の女性。

同時大量自殺事件をきっかけに全世界を巻き込んでいく

「自殺する権利=自殺法」を巡る、政治と哲学の論議・・。

 

ジェットコースターさながらに急転するストーリーになんとかしがみつき

――なるほど、本書のテーマは「自殺法の是非」か。

  では、この難問に対して、作者はどんな結論を用意しているのだろう。

などと、頭の中の〈予想終着点〉をリセットしていると

いつのまにか、「法律問題」とはまったく違うベクトルを持つ

”異能の持ち主”が霧の中からヌッ・・と姿をあらわし

あれよあれよという間に、全世界を恐怖と混沌のるつぼへと放り込んでいく。

 

で、気がついたときには

「近未来サスペンスSF」なる当初の見立てはあっけなく打ち破られ

ある女性をめぐる《究極のホラー小説》へと大変身。

読者は、底知れぬ暗闇のただなかに取り残されてしまうのだ。

いわゆる「ホラーもの」は、あまり波長が合わず

感動することなどめったにないのだが

この作品に関しては、間違いなく、読んでよかった!

・・と断言できる。

 

 ちなみに、昨年10月から今年1月にかけ

本書『バビロン』を原作にしたアニメが

ワンクール(12話)にわたって放送されていた。

だが、残念ながら、見終わった後の印象は

ストーリーをなぞるだけで精一杯だった、と言わざるを得ない。

「自殺法」に関する刺戟的なディスカッションをはじめ

様々な意味での想像力が要求される、複雑かつ冒険的な内容だっただけに

どんなに頑張っても12話では収めきれなかった・・

あたりが本音なのではないだろうか。

 

難しいとは思うが

いつの日か、ツークール(26話)の《完全版》を。

それもできれば、アニメではなく実写で。

リメイクに値するだけの中味は、十二分にあるのだから。

 

ではでは、またね。