SmartNewsの「雨雲レーダー画像」に表示される雨雲の動きを
実際に頭上に広がる空模様と見比べていたら
あっという間に夜になってしまった。
自宅に居ながらにして
リアルタイムで「宇宙からの視点」を得ることができる!
気象衛星やグーグルマップの凄さを改めて実感した1日だった。
そして、ついでにこんな感慨も抱いたのだ。
「もしクリスがスマホを持っていたら
スタンピード・トレイルで命を落とさずに済んだかもしれない」・・と。
ジョン・クラカワーの『荒野へ』は
1992年の夏、アラスカ内陸部での「単独冒険旅行」に挑んだ
当時24歳の若者クリス・マッカンドレスが
ちいさな偶然(ミス)の組み合わせにより
文明社会への帰還を果たせず、命を落とした事件を
克明に取材したドキュメンタリーである。
充分な装備も食料も携えず
ほとんどバックパックひとつを背負っただけの軽装で
たったひとり、人跡稀なアラスカの荒野に踏み入り
3ヵ月の夏の間、狩猟と採取だけで命を繋ごうとした彼の行為は
その悲劇的な終幕(餓死)もあって
「向こう見ずな愚か者」「変人」「傲慢と愚行によって命を落としたナルシスト」
など、称賛より遥かに大きな非難の声に迎えられた。
確かに、アラスカの荒野を生活の場とする
ハンター、建設作業員、国立公園職員、ツアーガイドたちから見れば
クリスの「冒険」は余りに準備不足で
〈アラスカをナメていた〉と断ぜられても仕方のないものだった。
しかし、著者ジョン・クラカワーは
死に至ったクリスの行動を、自身の「若き日の冒険」と重ね合わせ
次のように、吐露している。
『アラスカ冒険旅行で、私が生き残り、マッカンドレスが命を落としたという事実は、
ほとんど偶然にしかすぎない。
一九七七年に、私がスティキーン氷冠からもどってこなかったら、
死を望んでいたという噂がたちまち飛びかっただろう――
現在、マッカンドレスについて、噂されているように』(250ページ)
人により程度の差こそあれ、青春と無謀は、
おおむねワンセットになって私たちのなかを通り過ぎていく。
よほど慎重で用意周到、また相当な出不精でないかぎり
誰しも1度や2度は、「今から思えば間一髪だったかも・・」という
〈危ない橋を渡った記憶〉を心の片隅に残しているに違いない。
実は、私自身、忘れようとしても忘れられない、「間一髪の記憶」がある。
大学時代、1年間だけ所属した山岳サークルの合宿で南アルプスを縦走したとき。
3000メートル峰のひとつに登頂し
重さ30キロを超えるザックをおろした次の瞬間、身体が羽のように軽く感じた。
その浮遊感が楽しくてピョンピョン跳ねていたら
先輩が「お前、元気だな。ちょっとあそこまで走ってこい」
と、縦走路から200メートルほど左手に離れたピークを指差した。
興奮状態にあった私は、「はい!」と即答。
そのまま、50センチほどの幅しかない尾根道を
(両側は8等分したスイカのように数百メートル下まで切れ落ちている)
冷静になったら、とても走る気になれないナイフエッジを
ものの数分で一気に走り抜け、往復していたのだ。
――40年以上経ったいまでも、
そのときに味わった、とてつもない爽快感が蘇ってくる。
そのほかにも、現在位置を見失いながら勘だけで霧雨降る奥日光を踏破。
予定の倍以上をかけながらも、多大な幸運も手伝い
夜8時過ぎに宿泊地(山中の温泉宿)にたどり着けたこと。
など、よくまあ無事で済んだことだ・・
と呆れるような体験を、いくつも重ねていた。
そして、皮肉なことに。
これらの「無謀な愚行」にまつわる記憶こそが、自分のなかで
他の何にも増して、いまなお燦然と輝く《青春の想い出》なのである。
「人は何のために山に登るのか?」なる問いに対し
「そりゃ、頂上を極めるためでしょ」と答えると
”人生の達人”などと称される偉い方は
「いやいや、無事に帰ってくるために登るんだよ」
なーんて、したり顔で語るけど。
やっぱあれは、頭の中でこねくり回した〈屁理屈〉でしかないと思う。
山に登るという、ある意味〈命を懸けたイベント〉に臨んで
たったひとつマニュアルから外れたことを理由に
はるか手前の安全地帯でストップし、引き返したとする。
あなたは、それで、本当に満ち足りた気持ちになれるだろうか?
ぶっちゃけ「リベンジを果たす」まで、モヤモヤしたままじゃないのか。
ひょっとしたら、危ないかもしれない。
でも、ここは持てるすべてを注いで、チャレンジしたい!!
そんな、ワクワク!ドキドキ!・・が身をもって体験できるからこそ
山登りであり、冒険であり、青春なんじゃないのかなあ。
もちろん、なにを大切にして生きていくかは、人それぞれだ。
しかし、少なくとも私は今、しみじみと噛み締めている。
安全、安心、確実ばかりを後生大事に生きてこなくて
本当によかった・・と。
文庫Rock(読書案内)のつもりが、トンデモ大脱線の巻。
ではでは、またね。