久々に出逢えた”終わってほしくない物語” 『血涙 新楊家将』(上下巻)北方謙三 周回遅れの文庫Rock

前編に相当する『楊家将』(上下)を読み終えてすぐ

本書『血涙』の上巻を開くなり

――おおっ!(やはり)そうきたかっ!!

期待にたがわぬ急展開に揺さぶられ

たちまち10世紀末の中国世界に引きずり込まれてしまった。

 

それ以来

前作以上に登場人物の一挙手一投足に心を奪われつつ

〈やめられない止まらない状態〉へと沈没。

100ページを越える頃には

・・このままだと一晩で(貫徹で)読み終えかねない。

と、ありったけの自制心を発揮。

〈ゆっくり読むモード〉へとシフトダウンした。

 

そんなこんなで、先へ先へと急ぐ馬の手綱を引き絞るように

逸る気持ちをおさえながら

なんとか一日二章or100ページのペースを守って

意識的にじっくりゆっくり読み進めてきたのだが

それも下巻のなかば「第十章 哭く旗』までであった。

 

そして、まだ読んでいないページの厚みを、指先で測っては

ああ、これだけしか残っていない。

――でも、もう止められない。

続きを知りたい欲望と

いつまでも終わってほしくない欲望が

心のなかで〈がっぷり四つに〉組み合ったまま

とうとう、「終章 草原」へと到達してしまった。

 

戦いに命をかける男たちの言葉が、いまも胸に突き刺さっている。

「心配するな。予感がどれほど大事か、私は身をもって知っている」〔上巻230P〕

「ふるえながら、指揮をしろ。兵がひとり斃れたら、指が一本落とされたと感じられる

 ほどに、こわがっていろ。それで、見えてくるものがある」〔下巻217P)

 

いまの時代を一刀両断するような、作者の鋭い分析も

しばしば背筋をひやりとさせてくれた。

全軍の指揮官である柴礼の意思より、軍議の決定の方が優先される。

当然のようであっても、理不尽なのだ。

合議で生むのは、当たり前の考え方でしかない。〔上巻303P〕

どちらが正しいとは、言えない。問題は、両者の考えが一致しないことだ。

あるいは、どちらかが歩み寄らないことだ。軍は文官の指示に従うということになっていて、いつの間にか自らの意思を貫こうとしなくなった。敗戦の分析だけが、双方で活発に行なわれ、責任をなすりつけ合っている。〔下巻141P」

 

まさしく、金言の宝庫。

しかし、それ以上に

これは、「不世出の男の中の男たち」の物語なのである。

存分に満喫していただきたい。

 

ちなみに、物語の〈ジェットコースター感〉を存分に味わうためにも

『楊家将』と『血涙』は、ぜひ続けてお読みになるように。

私の場合も、たまたま前編の再読に続き

すぐ『血涙』のページを開くことができたのは

この上ない幸運だったと思っている。

 

ではでは、またね。