景色は天国、足は地獄!? ジュネーヴ発ボローニャ着 鉄道自由旅行2018 5/29-6/5 3日目後半 ふたり旅60' 

2018年5月31日(木) 3日目後半

 

途中のバス内に置き忘れたリュック捜索よりハイキングを優先し

標高2222メートルのMannlichen(メンリッヒェン)展望台から

あちこちに残雪が残るRomantikwegをトコトコと歩き出す。

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こんな写真ばっかり撮っていた

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花の写真は難しい

目の前には、垂直にそそり立つアイガー北壁。

残雪の斜面には、あわてて巣穴に逃げ込むリスの姿。

そして山肌を回り込むたび、足元に広がる可憐な高山植物の群落。

少しだけ白い雪に滑らぬよう注意する必要はあったが

道自体はゆるい上り下りが続き、快適に進んでいくことができた。

なにより、観光シーズンより少し早いこともあって

ほとんど誰にも会わない、独り占め感の凄さ!

抜けるような青空のもと

〈貸し切り〉で堪能するアイガー北壁とユングフラン三山の絶景。

まさに、夢のようなひとときだった。

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フレームに収まってくれない雄大

かくして、あっという間に2時間が経過。

最初の目的地Kleine Scheidegg(クライネ・シャイデック)を見上げる谷へ。

ようやくここで、少しずつハイキング客が増えてきた。

なかにはマウンテンバイクで登ってくる人々も。

「ハロー」と挨拶を交わしつつ

30ほどかけてKleine Scheidegg駅へ到着した。

スイス一有名な登山路線「ユングフラウ鉄道」のターミナルとして知られる

〔絶景の駅〕だけあって、ここだけは観光客がいっぱい。

我らもひとやすみし、真っ赤のオモチャのような登山列車を眺めたり

屋外レストランで名物の「レシュティ(ジャガイモ料理)」をパクつくことに。

ま、名物といっても、単にゆでたジャガイモをフライパンで焼き

ケチャップソースをかけただけなんだけどね・・

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クライネ・シャイデック駅 登山電車が降りてきた

時刻は、1時半。

いつの間にか頭上には灰白色の雲が広がり、雨がパラつき始めた。

標高2000メートルの峠だけに、山の天気は気まぐれだ。

「ここからふもとまで、どうしようか? 行けるとこまで歩いてみる?

 疲れたなら、登山電車に乗ってもいいけど」

「べつに、どっちでもいいよ。まだ足は痛くないし」

「うーん」

このまま雨が降るようだったら、電車に乗ったほうが賢明だけど・・

空を見上げると、さっきより雲が薄れ、青空が広がってきていた。

ここからグリンデルワルトに降りて行く散歩道も、田園風景が綺麗だそうだし。

――よし、行けるとこまで行ってみよう!

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いたるところに立て札 少々迷っても無問題!

迷ったら、歩いてみる。

結局、この基本方針に従い、トコトコ下りはじめた。

すると・・

予想通り天気は徐々に回復し、30分ほどで真っ青な空が戻って来た。

そして右手には、抜けるような青空と競い合うように

新緑の森の梢から垂直に立ち上がる、大きすぎる岸壁――アイガー北壁。

月並みだが、この世のものでは思えない余りの絶景に

何度も立ち止まり、見上げてしまった。

途中、岩の間から流れ出てくる冷たい水流で涼を取りながら

標高を下げるたび色鮮やかになっていく花畑と

白と黒でできた巨大岸壁のコントラストを思いっきり堪能・・

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花畑と山々を眺めながら・・

とはいいつも、気づいた時には峠を出発して、はや2時間余り。

さすがに、足が痛くなってくる。

特に、延々下り坂をおりてきたため、靴の中でつま先が悲鳴を上げていた。

「あ、あそこにBrandegg(途中駅のひとつ)が!あれに乗って行こうか?」

と、口には出したものの、心の中には反対の想いが。

――せいぜいあと1時間。ここまで来てリタイアするのは、なんかシャクだなぁ。

結局、悼む足を引きずりながら、3時間半ほどかけ

Kleine Scheidegg(クライネ・シャイデック)から

Kirche(グリンデルワルトの隣駅)まで、歩き切ってしまった。

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多少足が痛かろうと、歩かずにはいられない

ともあれ、16時を少し過ぎたころ。

足の痛み以外、特に問題もなく、グリンデルワルト駅に戻ってくることが――

いや、バスに置き忘れたリュックの件があった!

明日の朝には出発だから、それまでに見つけないと、確実にアウトだ。

少なくとも、ローブウェイの駅に行きバス〔ルート123〕の中に忘れたことは

ほぼ間違いないから、そこから訊いてみよう。

駅前のバスターミナルをうろつくが・・オフィスっぽい小屋は、見当たらず。

職員らしき人の姿も、まったくなし。

ならばと、鉄道駅で尋ねると、パス内の忘れ物はバスの事務所へ、との返事。

その事務所が見たあらないんです!

――なんて言い返す語学力もなく、もはやここまでか・・

諦めかけたところで、相方が一言。

「観光案内所で聞いてみたら?」

そうだ、その手があった!

 

閉店時刻間近の17時少し前、日本語観光案内所に駆け込み

みたび対面した男性所長に、バスに置き忘れたリュックの件を打ち明けた。

すると・・バスはどこ行き?何時ごろ?どんなリュックですか?

テキパキと問いかけ、すぐさまバスの事務所?に電話。

わずか1~2分で、該当するバスの運転手との通話にこぎつけ

「そのリュックなら車内で預かっている」という情報をゲット。そして

「あと5分ほどでターミナルに戻ってくるバスに、リュックがあるはずです。

 確かめてみてください」

まるで魔法のように、リュックの行方を教えてくれたのだ。

ちなみにここまでの手数料は、5スイスフランのみ。

 

そんなに話がうまくいくものか・・

半信半疑で、教えてもらった番号の停留所に向かい、待つことわずか。

どこか見慣れたバスが滑り込んできて、目の前でピタリと止まる。

パタンと扉が開き、これまた見覚えのある運転手の顔が。

視線が合うと小さく頷き、親指を下にグイと向けた。

すると乗車口の床、日本で言えば料金箱の真下に

ここ数年、旅のパートナーだった、青と赤ツートンカラーのリュックが!!

「イッツ、マイ、バゲージ!」

単語ばかりの英会話で、必死に自分のリュックだと伝えると。

髭面のドライバーは、ニカッと笑って「OK!」。

「サンキュー!サンキュー!」

6時間ほど離れ離れになっていた相棒を手許に引き寄せ

しっかり抱きかかえながら、感謝の言葉を連発。

そのまま、走り去っていくバスを見送り、ほっと安堵の息をつくと

バスターミナルの向かい側、通りを隔てた観光案内所の前に

男性所長の姿が。

首尾よく回収できたか、気にかけてくれていたのだ。

「ありました! ありがとうございます!」

両手でリュックを抱えたまま、ペコリとお辞儀をすると

小さく手を振り、笑ってくれたように見えた。

 

 

というわけで、いちどは諦めかけたリュックと見事に再会。

日本語観光案内所のサポートがなければ、十中八九取り戻せなかっただろう。

海外に行くと、日本語が話せることを売りにする

あまりタチのよくないガイドと関わってしまうことも少なくないが

グリンデルワルトの日本語観光案内所は

まさに痒い所に手が届く、至れり尽くせりのスポットだった。

 

 

その後は、どっと力が抜けたためか、語るほどのことはなし。

前日と同じスーパーで夕食を買い込み、村内バスの最終便でホテルへ。

あとは、暮れゆくアイガーの絶景を乱視と老眼が進むふたつのまなこに刻み込み

ゆっくりのんびり夜を過ごした。

 

明日は、朝から列車を乗り継ぎ、ハイジのふるさとMaienfeldへ!

 

ではでは、またね。